スパークスの実に6年ぶりとなる新作「官能の饗宴」です。しかし、この邦題は何なんでしょうね。原題は「グラテュイタス・サックス&センスレス・バイオリン」、おそらくはこの「サックス」を「セックス」と読み間違えたのではないでしょうか。記念すべき作品なのに散々です。

 前作を発表した後、スパークスは一時的にレ・リタ・ミツコとバンドを組んでシングル「シンギング・イン・ザ・シャワー」を発表し、フランスでそこそこのヒットを記録しています。しかし、その後、レコード契約は途絶え、しばらく自身の音楽を発表することはできませんでした。

 この6年間、スパークスはレコード契約のあてもありませんでしたけれども、ほぼ毎日自身のスタジオに出勤しては音楽制作に勤しんでいました。時には生活費にも事欠くことがあったそうでが、それまで浪費してこなかった彼らは何とか持ちこたえることができました。

 映画「スパークス・ブラザーズ」でこの頃のことを思って涙ぐんでいるのは、女優でミュージシャンのクリスティ・ヘイドンです。この6年の間にスパークスは彼女を主人公の声優として、日本の漫画「舞」を映画化することにも力を注いでいました。

 一時はティム・バートンが監督をすることになっていましたが、結局、この話は流れてしまいました。以前、ジャック・タチを監督にして映画を制作する話が流れたことを思い出します。よくよく映画に縁のないスパークスです。しかし、彼らはそんなことではあきらめません。

 本作品は1994年11月になって発表された16作目のアルバムです。ちなみに前年にはシングル「ナショナル・クライム・アウェアネス・ウィーク」を発表していますが、本作品には収録されていません。後に発表された豪華盤にはもちろん収録されています。

 起死回生の一枚です。本作品からのリード・シングル「ホエン・ドゥ・アイ・ゲット・トゥ・シング・マイ・ウェイ」の充実度といったらありません。とりわけヨーロッパで人気を博し、ドイツではトップ10ヒットを記録しています。メロディーが耳に残るシンセ・ポップの名曲です。

 面白いことに、6年ものブランクがあるスパークスですから、新人バンドと思った人も多かったようで、ペット・ショップ・ボーイズに似ていると評判になったとのことです。確かにどちらもシンセ・デュオですし、哀愁漂うサウンドに類似性をみるのは難しくありません。

 しかし、もちろんこちらがオリジナルです。ソフト・セル、イレイジャー、ニュー・オーダーなど多くのシンセ・ポップ・バンドがスパークスに影響を受けたと広言しています。ペット・ショップ・ボーイズは認めていないようですが、素直になった方がいいのになと思います。

 もう一つの話題は中国の映画監督ツイ・ハークがゲスト・ボーカルで参加していることです。その名も「ツイ・ハーク」なる楽曲でラッセル・メイルとともに渋い声を聴かせてくれます。ハークは「舞」の映画化プロジェクトにもかかわっていたとのことです。

 米国では今一つでしたけれども、ヨーロッパを中心にスパークスは本作品でまだ現役ばりばりで活躍していることが確認されました。腐らずにたゆまぬ努力を続けてきたスパークスにまた陽があたることになったのは素晴らしいことです。しかもこの陽はもう消えません。

Gratuitous Sax & Senseless Violin / Sparks (1994 Logic)



Tracks:
01. Gratuitous Sax
02. When Do I Get To Sing 'My Way'
03. (When I Kiss You) I Hear Charlie Parker Playing
04. Frankly, Scarlet, I Don't Give A Damn
05. I Thought I Told You To Wait In The Car
06. Hear No Evil, See No Evil, Speak No Evil
07. Now That I Own The BBC
08. Tsui Hark
09. The Ghost Of Liberace
10. Let's Go Surfing
11. Senseless Violins

Personnel:
Russell Mael : vocal
Ron Mael : keyboards
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Tsui Hark, Bill Kong : vocal