「ビューティフル・リワインド」はフォー・テットことキーラン・ヘブデンの7枚目のスタジオ・アルバムです。発表されたのはもう10年も前のことですが、私にとって10年くらいはまるで同時代、昨日のことのようです。歳をとるとはそういうことです。

 この作品を発表する頃には、フォー・テットはそれこそ英国クラブ・ミュージック界の大御所になっていました。本作品を発表したと同じ年にはシリアのダブケ・シンガー、オマール・スレイマンのアルバムをプロデュースするなど大物らしい行動をみせています。

 ウィキペディアンが分類するところによれば、本作品は「エレクトロニカ、トリップ・ホップ、テック・ハウス、オールドスクール・ジャングル、UKガレージ」とされています。2013年現在のクラブ・ミュージック・シーンを代表する作品であるという意味なんでしょう。

 しかし、この分類では一つ抜けています。それはインドです。エイジアン・マッシヴなり、バングラ・ビートなりも必要なのではないでしょうか。いずれにしてもミクスチャーなのですが、そこにはこのインド・フレイバーが欠かせないものと思います。

 ヘブデンは母親がアフリカ育ちのインド人だったということで、幼少のころからインド文化に触れる機会もあったのでしょう。本作品でも、例えば曲名にはヒンズー語と思しき単語が使われていますし、文字表記がデーヴナーグリー文字っぽいスタイルになっています。

 サウンド面でもバングラ・ビートが登場しますし、女声ボーカルの加え方がまさしくインド音楽のそれです。これらのインド要素がアルバムを豊かに彩っています。インドびいきの私としては俄然フォー・テットの音楽に親しみが湧いてきました。

 もちろんインド要素は一部に過ぎません。本作品にはパルスのようなビートを中心に据えたさまざまな種類の美しいサウンドがてんこ盛りです。時に焦点を欠いたアルバムとされることもあるようですけれども、アルバムを聴き終えると全体を覆う美しさが印象に残ります。

 シングル向けのキャッチーな曲が含まれているわけではありませんし、クラブ・ミュージックの世界に新たな風を吹かせる先進性があるわけでもないでしょうが、フォー・テットのセンスの良さが全開しているアルバムだと思います。曲ごとにまるで異なるサウンドが素敵です。

 もともとフォー・テットはポスト・ロック・バンドの出身ですし、ヒップホップやテクノはもちろんのこと、ジャズやフォークにも強い影響を受けています。彼のセンスの良さはそうした幅広い音楽体験を昇華しているところにあるのでしょう。そこに加えてインドですから最強です。

 本作品は前後のアルバムに比べればチャート・アクションは地味ですし、フォー・テットの代表作と言われることもありません。しかし、それだけに心安らかに楽しむことができます。もはや10年前の音楽シーンがどうだったかなどどうでもよい話ですし。

 本作品からは「クールFM」が米国史上最高の売上を誇るゲーム「グランド・セフト・オートV」のワールドワイドFM、次世代限定バージョンに使われています。この話は掘っていくと大変面白そうですね。世界は私を置いてどんどん進んでいるのでした。

Beautiful Rewind / Four Tet (2013 Text)



Tracks:
01. Gong
02. Parallel Jalebi
03. Our Navigation
04. Ba Teaches Yoga
05. Kool FM
06. Crush
07. Buchla
08. Aerial
09. Ever Never
10. Unicorn
11. Your Body Feels

Personnel:
Kieran Hebden
***
Tallulah Hebden