スパークスはロス制作の前作が不調だったことから、「イン・アウター・スペース」を収録したベルギーのスタジオで再び楽曲を制作することにしました。スパークスの影響が顕著なシンセ・ポップ・バンド、テレックスのメンバー、ダン・ラックスマンのシンサウンド・スタジオです。

 ここで制作した楽曲が「チェンジ」です。前作の不調でアトランティック・レコードとの契約が終了しており、この時点でスパークスはレコード・ディールがありませんでしたが、めでたく英国のロンドン・レコードが「チェンジ」をシングルとしてリリースすることとなりました。

 「チェンジ」のB面にはスパークスの往年のヒット曲「ディス・タウン」のアコースティック・バージョンが収録されるというおまけが付きましたが、さほど大きなヒットとはならず、アメリカ方面では発売もされませんでした。語るようなボーカルの意欲作でしたけれども。

 ロンドン・レコードはこれを気に入らず、重役はロンとラッセルのメイル兄弟に「踊れる曲を作れ」と言い放ちます。二人はこれに応えて、その言葉をそのままタイトルにした楽曲を制作します。それが本作品のタイトル・トラックです。メイル兄弟らしい話です。

 重役はこの皮肉が気に入らず、結局スパークスはまたレコード会社を失ってしまいました。そこから新たなレコード会社が見つかるまでかなりの時間を要し、結局、アルバムが発表されたのは1986年6月のことです。紆余曲折を経たアルバムです。

 アルバムは各地でレコード会社が異なっていますし、米国では未発売だった「チェンジ」が収録されていますが、それ以外の国では代わりにホラー映画「フライトナイト」のサントラに収録されていた「アーミーズ・オブ・ザ・ナイト」が入っていますから要注意です。

 本作品はタイトル通り、ダンス仕様になっています。スパークスのアルバムでは「ナンバー・ワン・イン・ヘヴン」以来と言われますけれども、かなりテイストは異なります。スタジオ・オーナーのテレックスやゲイリー・ニューマンなどのニュー・ウェイヴ系シンセ・ポップ風味です。

 確かに踊れるのですけれども、やや暗くて重い。歪んだ重低音が目出つサウンドです。前作とはまるで雰囲気の異なるやたらとおしゃれなジャケットそのままのサウンドだといえます。結果、タイトル曲は米国のダンス・チャートで6位にまであがるヒットを記録しました。

 しかしながら、続くシングル「フィンガーティップス」は目立ったヒットにはなりませんでしたし、アルバム自体はチャート入りを逃しています。シンセの使い方もかっこいいですし、あいかわらずクオリティーの高いポップ・アルバムなのに訳が分かりませんね。

 ヨーロッパではすでにシングルとして発表されていた「モデスティ・プレイズ」や久々のカバーとなるスティーヴィー・ワンダーの「フィンガーティップス」、さらには「ローズバッド」など力作が並んでいるのに残念です。スパークスはまた一からやり直すことになったのでした。

 なお、この頃、ラッセル・メイルは日本にやってきて、サロン・ミュージックのレコーディングに参加しています。そのうちの1曲はスパークスを手本としてきたソフト・セルの「セイ・ハロー・ウェイヴ・グッバイ」のカバーでした。さすがはお洒落バンド、サロン・ミュージックです。

Music That You Can Dance To / Sparks (1986 Curb)



Tracks:
01. Music That You Can Dance To
02. Rosebud
03. Fingertips
04. Armies Of The Night
05. The Scene
06. Shopping Mall Of Love
07. Modesty Plays (New Version)
08. Let's Get Funky

Personnel:
Russell Mael : vocal
Ron Mael : synthesizers, vocal
Bob Haag : guitar, synthesizer, chorus
Leslie Bohem : bass, chorus
David Kendrick : drums
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John Thomas : additional keyboards
Robert Mache : guitar