半世紀にわたってレゲエを牽引してきた男、リー・スクラッチ・ペリーのアンソロジーです。ペリーは、その半世紀の間、ずっと最先端を走り続けており、幅広い年代のファンが彼のことを同世代のミュージシャンと認識してきたという凄いアーティストです。

 プロデューサーでもあるペリーですから、ベスト・アルバムなどの編集盤が数多く発売されています。「キング・スクラッチ」と名付けられた本作品は、ペリーが85歳で亡くなった後に出された最初の編集盤です。由緒正しいトロージャン・レコードからの発表です。

 ペリーの活動はそれこそ幅広いわけですが、本作品は主に1960年代から70年代に焦点が当たっています。ただし、最後の方には2000年代の作品がいくつか収録されており、ペリーの長年にわたる活動を印象付ける仕掛けも施されています。

 結果として収録作品の年代の幅が広いですし、さらにペリー本人が演奏しているものばかりではなく、そのプロデュース作品が多数収録されていることから、2枚組2時間を超える本作品はさながらレゲエの歴史を綴ったコンピレーションのようになっています。

 冒頭に置かれた楽曲は1968年に立ち上げた自身のレーベルからのシングル、「ピープル・ファニー・ボーイ」です。最初期のレゲエ作品とされる曲の一つで、ペリーの曲の中でもとりわけ有名な曲で大きなヒットになりました。赤ん坊の泣き声を使用した革新的な曲です。

 この曲のヒットを土産に彼のレーベルはトロージャンと協業することとなり、スタジオバンドであるアップセッターズによる「リターン・オブ・ジャンゴ」の英国で5位となる大ヒットが誕生します。その後も活動は順調で、1973年には自身のブラック・アーク・スタジオを開設します。

 スタジオは1980年代前半に閉鎖されてしまいますが、この間に数多くのヒット曲がここから生まれています。この編集盤の大半はこの時期の代表曲から構成されています。それも7インチや12インチのミックスが多いところがなかなか丁寧です。

 収録楽曲は、全英5位となったスーザン・カドガンの「ハート・ソー・グッド」、クラッシュがカバーしたことで有名なジュニア・マーヴィンの「ポリスとコソ泥」、プロディジーがサンプリングしたマックス・ロメオの「チェイス・ザ・デヴィル」、ヘプトーンズにハート・オブ・コンゴなどなど。

 この後、ペリーの活動拠点は米国や英国に移っていることを考えると、本作品がコンパイルしているのはペリーのジャマイカ時代だといえます。こうしてまとめて聴くと、なんと芳醇な世界が展開していたことでしょうか。まだ若いレゲエの凄味がまぶしいです。

 アルバムの終盤には、ボブ・マーリーの「エクソダス」のカバー、2004年のグラミー賞でベスト・レゲエ・アルバム賞を受賞した「ジャマイカンET」が収録されています。いずれも21世紀のペリーで、背筋に電気が走るような刺激的なトラックです。

 所詮はペリーの全体像を2枚組CDで知ることなどかなわないことですけれども、レゲエをはぐくんだジャマイカ時代を中心に、ダブを極めた英米時代を少しだけ加えた本作品はペリーの入門編としてはよく出来ている作品だと思います。文句なくかっこいいです。

King Scratch : Musica Masterpieces From Masterpieces From The Upsetter Ark-ive / Lee "Scratch" Perry (2022 Trojan)



Tracks:
(disc one)
01. People Funny Boy
02. Tighten Up (The Inspirations)
03. Return Of Django (The Upsetters)
04. Shocks Of Mighty (Dave Barker & The Upsetters)
05. Place Called Africa (Junior Byles)
06. All Africans aka Don't Cross The Nation -7" mix(Little Roy)
07. Beat Down Babylon (Junior Byles)
08. Words Of My Mouth (The Garherers)
09. Bucky Skank
10. Jungle Lion - 7" mix
11. Hurt So Good - 7" mix (Susan Cadogan)
12. Curley Locks (Junior Byles)
13. Bushweed Corntrash (Bunny & Ricky)
14. Stay Dread
15. Three Blind Mice (Max Romeo)
16. Do It Baby (aka Nice And Easy) - 7" mix (Susan Cadogan)
17. Natty Pass Through Rome (Prince Jazzbo)
18. One Step Forward / Ital Corner - 12" mix (Max Romeo & Prince Jazzbo)
19. Sufferer's Time (The Heptones)
20. Police And Thief aka Police And Thieves - 12" mix (Junior Murvin & Jah Lion)
21. Roast Fish And Corn Bread - Jamaican mix
22. Sipple Out Deh aka War In A Babylon : Jamaican mix (Max Romeo)
(disc two)
01. Fire Fe The Vatican - 7" mix (Max Romeo)
02. Rise And Shine (Watty & Tony)
03. Chase The Devil / Disco Devil (Max Romeo & Lee "Scratch" Perry with The Full Experience)
04. Voodooism (Leo Graham)
05. Open The Gate - 7" mix (Watty Burnett)
06. Roots Train - 7" mix (Junior Murvin)
07. Soul Fire - Jamaican mix
08. Cross Over - 12" mix (Junior Murvin)
09. At The Feast (Of The Passover) (The Congos)
10. Free Up The Prisoners - 7" mix
11. Sons Of Slaves - 7" mix (Junior Delgado)
12. Big Neck Policeman
13. Neckodeemus aka Nicodemus - 7" mix (The Congos)
14. Bafflin' Smoke Signal - 7" mix
15. One Drop
16. I Am A Madman
17. Exodus - 7" mix
18. Jamaican E.T.

Personnel:
Lee "Scratch" Perry
***
The Inspirations
The Upsetters
Dave Barker
Junior Byles
Little Roy
The Garherers
Susan Cadogan
Bunny & Ricky
Max Romeo
Prince Jazzbo
The Heptones
Junior Murvin
Jah Lion
Watty & Tony
The Full Experience
Leo Graham
Watty Burnett
The Congos
Junior Delgado