メレディス・モンクの三幕からなるオペラ「アトラス」です。モンクにとっては代表作ともいえる大作で、3年以上の歳月をかけて完成にこぎつけました。初演は1991年2月22日に米国のヒューストン・グランド・オペラにて行われ、その後欧米各地で上演されました。

 本作品はヒューストン・グランド・オペラのデヴィッド・ゴックリーがモンクに「新しいオペラ」を作らないかと持ち掛けたことから実現したものです。この出自を聞くと、この作品は正真正銘のオペラに違いありません。しかし、オペラと聞いて思い浮かぶ作品とは大きく違います。

 そもそもオペラとは何なんでしょう。歌劇であることは譲れないでしょうが、それではミュージカルと何が違うのでしょう。調べてみると、ワーグナーはオペラでアンドリュー・ロイド・ウェーバーはミュージカルだといっているに等しい定義しか見当たりません。

 つねにジャンルの壁を越えてきたモンクですから、オペラと思われようがそうでなかろうが関係ありませんけれども、モンクを知らない人が、オペラを見るぞと構えて臨むと面食らいそうです。何といっても歌詞の大半がいつもの音声詩ですから。歌い方も違いますしね。

 「アトラス」はアレクサンドラ・ダニエルズという女性の旅を描いた作品です。遠くの場所を夢見る少女として育ったアレクサンドラが、成長して仲間とともに旅に出るというもので、地球をも越えるその旅はスピリチュアルな冒険のメタファーになっています。

 三幕はそれぞれ、「個人の状況」、「夜の旅」、「見えない光」と題されており、多くの登場人物がさまざまな情景を演じていきます。添えられた舞台写真を見ると、大がかりな舞台装置も登場しますけれども、印象としてはオペラというよりも演劇のそれに近いです。

 本作品は、1992年6月にニューヨークのパワー・ステーションで録音された作品です。モンクはプロデューサーのマンフレッド・アイヒャーとともに、本作品をサウンドだけで完結するように仕上げています。したがってオペラそのものとは少し性格が違います。

 本作品に参加しているのは、歌手が19人、演奏者が12人と、モンクにしては大がかりな布陣です。歌手はそれぞれが役割を振り当てられており、この19人がさまざまな組み合わせでパフォーマンスを行います。そのためモンクのそれまでの作品の集大成を感じます。

 演奏陣もモンクにしては大人数です。弦楽器、管楽器、打楽器に鍵盤楽器、さらにはグラス・ハーモニカや中国の伝統楽器なども使った演奏となっており、多彩なサウンドが歌を彩っていきます。歌手たちの動きも大きいのかなと思わせる演奏です。

 歌詞が意味のあるテキストではありませんから、レコードだけで筋を追うことはできませんけれども、それぞれの楽曲のタイトル、舞台写真などを眺めるだけで、アレクサンドラと仲間たちのスピリチュアルな冒険の様子は伝わってきます。

 2時間を超える大作ですけれども、目まぐるしい展開のオペラだけに長さはあまり感じません。選び抜かれた歌手たちの一体となったパフォーマンスは素晴らしく、一般に思い浮かべるものとは違いますけれども、総合芸術としてのオペラの極北であろうと思います。

Atlas / Meredith Monk (1993 ECM)



Tracks:
(disc one)
Part I: Personal Climate
01. Overture (Out Of Body 1)
02. Travel dream Song
03. Home Scene
04. Future Quest (The Call)
05. Rite Of Passage A
06. Choosing Companions
07. Airport
Part II : Night Travel
08. Night Travel
09. Guides' Dance
10. Agricultural Community
(disc two)
01. Loss Song
02. Cmpfire / Hungry Ghost
03. Father's Hope
04. Ice Demons
05. Explorer #5 / Lesson / Explores' Procession
06. Lonely Spirit
07. Forest Questions
08. Desert Tango
09. Treachery (Temptation)
10. Possibility Of Destruction
Part III : Invisible lIght
11. Out Of Body 2
12. Other Worlds Revealed
13. Explorers' Junctures
14. Earth Seen From Above
15. Rite Of Passage B

Personnel:
Meredith Monk, Carlos Arévalo, Thomas Bogdan, Victoria Boomsma, Janis Brenner, Shi-Zheng Chen, Allison Easter, Robert Een, Dina Emerson, Emily Eyre, Katie Geissinger, Ching Gonzale3z, Dana Hanchard, Wayne Hankin, Wendy Hill, Stephen Kalm, Robert Osborne, Wilbur Pauley, Randall Wong : voices
Susan Iadone, Darryl Kubian : violin
Kathleen Carroll : viola
Anthony Pirollo, Arthur J. Fiacco Jr. : violoncello
John Cipolla : clarinet, bass clarinet
Waune Hankin : shawm, sheng, recorder
James F. Wilson : French horn
Cynthia Powell, Steve Lockwood : keyboards
Thad Wheeler : percussion
Bill Hayes : glass harmonica
Wayne Hankin : conductor