ザ・スターリンの未発表録音が発見されるとは喜ばしいことです。「まぢかー!」という心の叫びに発見したいぬん堂さんの興奮が現れています。日ごろから丁寧にあの頃のサウンドをパッケージしてくれているいぬん堂さんならでは。ここは感謝しかありません。

 本作品は2019年3月に見つかった4曲入りオープン・リール(!)の音源を収録したものです。収録曲は4曲、「首だけアツレキ」、「黄昏」、「キャプテン・クック・トロージャン」、「あそこうらんでョ(ニセ解剖)」です。このうち「黄昏」だけが完全未発表曲です。

 「キャプテン・クック・トロージャン」は後にギターを加えたバージョンが米国のコンピレーション・アルバムに収録されていますし、他の2曲はカラオケが「虫」の40周年エディションにて発表されています。比較的行き届いた音源管理をされているスターリンです。

 発見されたテープがどのような性格のものなのか詳細は不明ですが、テープには「カセット用」と書かれており、単なるアルバムのアウトテイクというわけではなさそうです。その後の遠藤ミチロウ=スターリンの軌跡を念頭に謎解きに挑戦するのも楽しそうです。

 テープは1983年2月19日に東池袋のサンライズ・スタジオにて録音されています。この直前には箱根のロックウェルスタジオにて傑作アルバム「虫」がレコーディングされており、いぬん堂さんは、そこで歌入れが間に合わなかった4曲の仕上げだったと推測しています。

 また、「虫」のテープの箱に入っていた手書き歌詞には、本作品のうち3曲の歌詞が残されているそうです。果たして、本作品と「虫」との関係は一体どうなっているのか、ファンの間で議論してみるのは楽しそうです。フォーラムができればいいですね。

 本作品を演奏したメンバーは、ボーカルに遠藤ミチロウ、ギターにタム、ベースに杉山シンタロウ、ドラムに中村ていゆうの4人です。もちろん「虫」と同じメンバーですが、このうち中村はじゃがたらからの参加で必ずしもスターリンのメンバーというわけではありません。

 サウンドはザ・スターリンの傑作である「虫」と一体と考えるのが自然です。ただし、こちらは最終的な仕上げが行われていない、いわゆるネイキッドだと思われます。とんつくとんつくとなるドラムとか、もう少し手が加わってもおかしくないでしょう。

 饒舌な歌詞から、切り裂くような短いフレーズを畳みかけていくスタイルに変わっていた時期だけに、遠藤の吐き出す歌は切れ味が最高です。遠藤ミチロウの歌に浸っていた頃を思い出して胸が熱くなりました。そういう楽しみ方で本当に良いのか胸がざわざわしますが。

 ジャケットは宮西計三の描きおろしです。宮西は、ファンならご案内の通り、日本のパンク史上に燦然と輝く名盤といえる、ザ・スターリンのデビュー作「トラッシュ」のジャケットを描いたアーティストです。このプロジェクトに参加した人々の気合を感じます。

 遠藤ミチロウが亡くなって早4年。残された音源が丁寧に発掘されていく様子を見ているととても感慨深いものがあります。それだけ遠藤=ザ・スターリンが日本の音楽界に残した衝撃が大きかったのだと、自分史に重ね合わせてしみじみと感動しています。

Kubi Dake Atsureki / The Stalin (2023 北極バクテリア)

映像が見当たらないので、本作品とは関係ないですが公式映像をどうぞ。



Tracks:
01. キャプテン・クック・トロージャン
02. 黄昏
03. あそこうらんでョ(ニセ解剖)
04. 首だけアツレキ

Personnel:
遠藤ミチロウ : vocal
タム : guitar
杉山シンタロウ : bass
中村ていゆう : drums