ピンクの4枚目のアルバムは「サイバー」と名付けられました。サイバネティクスを語源とするサイバーパンクに由来するタイトルであろうと思われます。サイバーパンク小説の代表格ウィリアム・ギブスンの「ニュー・ロマンサー」には私も興奮したものです。

 YMOの「テクノポリス」や沢田研二の「TOKIO」で始まった電脳都市としての東京は、この頃、バブル時代を迎えて世界をリードする都市として輝いていたものです。サイバーシティです。すっかり凋落した今からは想像もつかない時代でした。

 ついでにいえば、この頃、ほぼLPを駆逐したCDにもまだまだ近未来を感じたもので、CDもまたサイバーなのでした。とほほ。ピンクの本作品は収録時間が67分弱で、彼らとしては初めてCDをメインの媒体として制作したアルバムでもあります。

 このため、LPでは2枚組なのですが、最後のD面には何も収録されていないという珍しい仕様で発売されています。この頃には再びLPが復権する未来が来るとは誰も思ってもみませんでした。何だかレトロフューチャー気分のサイバーな話ですね。

 本作品では健康面で問題を抱えていた渋谷ヒデヒロに代わって逆井オサムがメンバーとして参加しています。逆井はルージュ、イミテーション、エコーズを経て参加したギタリストですから、新人などではありません。他のメンバー同様にすでに評価を確立した人です。

 なお、レコーディングには参加していますけれども、本作品がリリースされた頃にはパーカッションのスティーヴ衛藤も脱退してしまいます。メンバー間の結束は弱まっており、ホッピー神山によれば、「ホワイト・アルバム」の頃のビートルズのようだったそうです。

 「ホワイト・アルバム」同様に、本作品では衛藤を除く5人それぞれが曲作りに参加しています。これまではほぼ福岡ユタカが独占していたことを考えると大きな変化です。さらに、全員にボーカルのクレジットがつけられ、福岡以外もリード・ボーカルまで担当しています。

 CDをターゲットにしたとはいえ、中途半端な長さになっているのはそれぞれが持ち寄った曲が多くなったからという事情もありました。そのため、ホッピーの言葉を借りれば「よく言えばヴァラエティーに富んだ、悪く言えばトータル性のない雑多なアルバム」になったとのこと。

 作詞家も宇辺セージと吉田美奈子の常連組に加えて、サロン・ミュージックの二人やクジラの杉林恭雄が参加しており、こちらもヴァラエティー豊かになりました。これを複数のリード・ボーカリストが歌いますから、ますます幅が広がった感じを受けます。

 とはいえ、まとまりがないわけではなく、どんな曲調であってもサイバーであることは間違いありません。ピンクの歴史に置くと散らかっているのかもしれませんが、巨視的にみるとピンクのサイバー・サウンドは健在です。硬質の音でサイバー感覚を貫いています。

 メンバーそれぞれが持ち寄っただけのことはあって、楽曲それぞれは丁寧に仕上げられています。そのため本作品をピンクの最高傑作とするファンも多いようです。ちょっとレトロなフューチャー感覚が今となってはとても新鮮に映る作品だと思います。

Cyber / Pink (1987 ムーン)



Tracks:
01. Tokyo Joy
02. Climb, Baby Climb
03. Dr. Midnight
04. Christmas Illusion
05. 二人の楽園
06. C/SEC
07. Forever & Ever
08. Decay The World, Delay The Wall
09. 熱砂の果て
10. Fire
11. Silent Sun
12. Doctor-D Rock
13. Behind The Garden
14. Go East

Personnel:
福岡ユタカ : vocal, guitar
矢壁アツノブ : drums, vocal
ホッピー神山 : keyboards, vocal, guitar
岡野ハジメ : bass, vocal, keyboards, guitar
逆井オサム : guitar, vocal
スティーヴ衛藤 : percussion, vocal