ロンとラッセルのメイル兄弟は「ビッグ・ビート」が期待外れの成績しか残せなかったことから、またまたバンドを一からやり直すことにします。そして、前作に集まった三人のミュージシャンに引導を渡し、次の作品はザ・セッション・ミュージシャンと制作することにしました。

 出来上がった作品が本作品「イントロデューシング・スパークス」です。デビュー・アルバムでもベスト・アルバムでもありませんし、レーベル移籍後初のアルバムというわけでもありません。ここで「イントロデューシング」を使うのは皮肉でしかありません。

 ジャケットは確かに「イントロデューシング」に相応しいです。マルベル堂のプロマイドのようなラッセルの写真がかっこいいです。しかし、これもまたこの兄弟にかかると一筋縄ではいきません。裏面は同様の衣装と構図でロンが写っています。なんと評したものか。

 前作は幾分パンク的でしたけれども、本作までの間にパンクの勢力は伸長しており、メイル兄弟はパンクが批判する対象が自分たちの音楽なのではないかと思い始めています。自分たちではパンクを演奏することはできないし、心地よいポジションはどこなんだろうか、と。

 考えた結果が本作品です。前作に比べるといわゆるアメリカンなサウンドになっています。兄弟の脇を固めるミュージシャンは、デヴィッド・フォスターやデヴィッド・ペイチとマイク・ポーカロのTOTO組、ジャズのアラン・ブロードベント、リー・リトナーなどなど。

 これまでのスパークスとは打って変わって、この当時のアメリカの音楽界で中心になって活動していたセッション・ミュージシャンばかりが選ばれています。アメリカのメイン・ストリームをそのまま引っ張ってきた作品であるということになります。

 彼らは期待通りの素晴らしい演奏をしています。もちろん、その分、サウンドに驚きはありません。プロデューサーもベイ・シティ・ローラーズを手がけたジミー・イエナーが起用されており、どこをどうとってもポピュラー音楽の王道に浮気しています。

 しかし、その手慣れたサウンドが悪いわけではけっしてありません。どっしりとした演奏を得て、メイル兄弟は楽し気に歌って踊っています。兄弟が書く曲は相変わらずキャッチーで素敵ですし、その歌詞の世界はますます面白くなってきています。

 レッチリのフリーが大好きだと語る「ゾーズ・ミステリー」などは、♪なぜ時間はあるの?なぜ空間はあるの?♪と存在の神秘を正面から歌い上げています。他にも♪君には職業が必要♪という「オキュペーション」など、分かりやすいのに歌詞としては妙な楽曲が多い。

 本作品はそのサウンドの変化もあって、従来のスパークス・ファンからの評判はよろしくありませんでした。英米ではチャートインすら逃しました。そのため、長らく入手困難な状態が続いていましたが、近年では再評価が進んだおかげで入手しやすくなっています。

 スパークスの作品に典型的な評価でもあります。ヒットしなかったのは、その時点でのサウンドの選び方が時代とマッチしていなかったからで、同時代でなくなれば、その楽曲のクオリティーの高さが再発見されていきます。本人たちには残念な話でしょうが。

Introducing Sparks / Sparks (1977 Columbia)



Tracks:
01. A Big Surprise
02. Occupation
03. Ladies
04. I'm Not
05. Forever Young
06. Goofing Off
07. Girls On The Brain
08. Over The Summer
09. Those Mysteries

Personnel:
Russell Mael : vocal
Ron Mael : keyboards
***
Alan broadbent, Ben Benay, David Foster, Ed Greene, David Paich, Mike Porcaro, Reinie Press, Lee Ritenour, Thom Rotella : musicians
Tom Bahler, Al Capps, Stan Farber, Jim Haas, Ron Hicklin, Mark Piscietelli, Nick Uhrig : chorus