スパークスのアイランドでの3作目、通算すれば5枚目のアルバム「スパーク・ショー」です。原題は「インディスクリート」、直訳すれば「思慮に欠けた」とか「軽率な」とかそんな意味ですから、音楽のアルバム・タイトルとしては見事に訳しにくい言葉です。

 スパークスのメイル兄弟が使う言葉は十重二十重にひねってあり、そこに隠された意味を把握するには英語ネイティヴでも時間がかかる模様です。いくらでも深読みが可能であるということで、ここもまたスパークスが英国的であるポイントになっています。

 たとえば本作品の中ではそのものずばりのタイトルを持つ「ティッツ」。もちろん乳首のことですが、歌の内容は、子どもができてから奥さんが構ってくれないと愚痴る酔っ払いのたわごとです。そして愚痴の聴き手は奥さんの浮気相手のようだとなると何ともはや。

 歌詞の問題はさておき、本作品は大変な意欲作です。プロデューサーはマフ・ウィンウッドからトニー・ヴィスコンティに交代しました。Tレックスやデヴィッド・ボウイを手がけたヴィスコンティです。そして、ヴィスコンティはプロデューサーの枠を超える活躍をしています。

 ヴィスコンティ曰く、スパークスはこのアルバムを彼らの「サージェント・ペパーズ」となると考えていたそうです。実際、全編ポップを極めていた前二作に対し、本作品に収録された楽曲には初めてオーケストラが導入され、ロック以外のさまざまなスタイルが折衷されています。

 メイル兄弟はヴィスコンティに好きなようにやらせたのだそうで、ヴィスコンティは嬉々としてさまざまなアイデアを出している模様です。ある意味、プロデューサーとしてのキャリアを作ったアルバムであり、彼自身、今でも大好きなアルバムだということです。

 曲によって、スウィングだったり、ポルカだったり、ボードヴィル調だったり、クラシック的だったりとさまざまにアレンジされており、大変な意欲作であることがよく分かります。しかし、どこをどう切り取ってもスパークス印が刻印されています。何をやってもスパークス。

 ラッセル・メイルのファルセットを多用したボーカルが、ロン・メイルが書く独特のメロディーに乗っているという点では何をどうしようとスパークスなんです。これをマンネリと捉えるのか、極上のポップ・サウンドがまた一つ付け加わったととるかでファンかどうかが分かれます。

 本作品は英国では18位とそこそこ健闘しましたけれども、前二作には及びませんでした。「若さでスウィング」と「恋はルックで」の二曲のシングルも全英トップ30入りしたくらいのヒットです。ツアー先では黄色い悲鳴に包まれたスパークスにしては不本意です。

 実際、ロン・メイルはこの作品があまり売れなかったことに今でも怒り心頭です。実験的でありながらもポップな本作品はそれほどの自信作だったということなのでしょう。スパークスの後の苦難に比べればこのアルバムなど大成功の部類ですが、それは後の話。

 なお、本作品は1994年と2006年の二度にわたってCD化されましたが、両者ではボーナス・トラックが異なっています。私のものは21世紀バージョン、旧版ではビートルズの「抱きしめたい」のラウンジなカバーが収録されていますから要注意です。

Indiscreet / Sparks (1975 Island)



Tracks:
01. Hospitality On Parade 栄光のパレード
02. Happy Hunting Ground 陽気なハンティング
03. Without Using Hands
04. Get In The Swing 若さでスウィング
05. Under The Table With Her
06. How Are You Getting Home?
07. Pineapple
08. Tits
09. It Ain't 1918 ジョニーの物語
10. The Lady Is Lingering
11. In The Future 未来は未来
12. Looks, Looks, Looks 恋はルックで
13. Miss The Start, Miss The End
(bonus)
14. Profile
15. The Wedding Of Jacqueline Kennedy To Russell Mael
16. Looks, Looks, Looks (live)

Personnel:
Russell Mael : vocal
Ron Mael : keyboards
Ian Hampton : bass
Trevor White : guitar
Norman Diamond : drums
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Mike Piggott : fiddle
Tony Visocnti : orchestral arrangements