ピンクないしはその前身おピンク兄弟が一般に姿を現したのは新宿のツバキハウスでのことですが、事の発端はサザンオールスターズで有名な芸能事務所アミューズの会議室を利用して録音を始めたことなのだそうです。さらに前史があったわけです。

 スタジオでの録音が始まりというのもこのバンドによく似合う気がします。ライヴ・バンドでもあり、スタジオ・ワークを極めたバンドでもあるからです。1980年代後半は電子楽器も録音技術も格段の進歩をみせてきた時期で、ピンクはその産物でもあると思います。

 さて、本作品はピンクの2枚目のアルバム「光の子」です。前作発表から半年もたたない1985年10月にはすでに録音が開始され、その4か月後には発表されています。創作意欲が極めて高かったことの証左です。おかげでアルバムは疾走感にあふれています。

 当初は「ラヴ・トゥリーズ」というテーマでアルバム作りが始まったそうですが、「もっとスピード感と攻撃性があった方がいいというので」「光の子」がテーマに選ばれました。そのふるまいが予測できない子どものイメージと最速の光のイメージが被さります。

 前作がピンク誕生までのさまざまな思いを詰め込んで出来上がったこともあって、混沌としたエネルギーに満ち溢れていましたが、本作品は前作で一度すっきりしたためでしょう、疾走感はあるものの少し落ち着いてより明るくポップになりました。

 ジャケットは古代オリエントの石像の頭をアップで撮影した写真です。前作との違いはジャケットにも如実ですが、私にはピンクのイメージはまさにこの写真です。そこはかとなくオリエントの香りがするピンクのサウンドのイメージにぴったりです。

 そして、そのサウンドはこの時代ならではのデジタル臭があっていい感じです。語弊があるかもしれませんが、フランク・ザッパ先生のシンクラヴィア作品のようなサウンドになっています。硬質なファンク、サイバーなファンク、そんなサウンドです。

 そんなサウンドにファンキーなリズムなのですが、意外にも福岡による日本語ボーカルがとてもしっくりきます。英語的な発音ではなく、しっかりとした日本語の抑揚がメロディーとサウンドにぴったりとはまっています。こんなバンドはなかなかあるものではありません。

 作曲はほぼすべてボーカルの福岡ユタカが担っていますが、作詞は福岡に加えて、ギターの渋谷ヒデヒロ、吉田美奈子とAB’sの安藤芳彦の4人が分け合っています。しかし、イメージは統一されており、福岡の豊かなボーカルが映える歌詞の世界となっています。

 アルバムには今回もゲストとして吉田美奈子と横山英規が参加している他、ゲスト・ギタリストとしてRAことすがわらはじめが三曲に参加しています。RAは岡野ハジメとともに南佳孝の「冒険王」などに参加していたギタリストですから仲良しなんでしょう。

 このアルバムは結構な話題になりました。私はデビュー作をスルーしてしまっていましたが、この作品は気になりました。音楽誌のレビューは軒並み高評価だったことを覚えています。当時からピンクはどこか特異な存在でありました。孤高のバンドのイメージです。

Hikari No Ko / Pink (1986 ムーン)

参照:福岡ユタカ(PINK)インタビュー

Tracks:
01. 光の子
02. Shisuno
03. 日蝕譚 - Solar Eclipse -
04. Hiding Face
05. Gold Angel
06. Don't Stop Passengers
07. Isolated Runner
08. 青い羊の夢
09. 星のPicnic
10. Luccia

Personnel:
福岡ユタカ : vocal
矢壁アツノブ : drums
ホッピー神山 : keyboards
岡野ハジメ : bass
渋谷ヒデヒロ : guitar
スティーヴ衛藤 : percussion
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横山英規 : sax
吉田美奈子 : voice
RA : guitar
EVE : voice