ピンクは1980年代後半の日本の音楽シーンになくてはならない存在ですし、熱心なファンが多かったにもかかわらず、あまり情報が手に入りません。バンド名も影響しているでしょう。検索してもあちらのピンクばかり引っ掛かります。おピンク兄弟の方が良かったのに。

 ピンクは近田春夫とビブラトーンズ、後に爆風スランプとなる爆風銃、かの香織がボーカルを務めていたショコラータなどのバンドで活動していた、いずれも音楽界では名の知れたミュージシャンによって結成されたバンドです。玄人筋のスーパー・グループです。

 1980年代の前半、新宿のクラブ、ツバキハウスで「おピンク兄弟」と名乗るライヴ・セッションが行われます。流動的なメンバーだったようですが、この中から6人の意気投合したミュージシャンによってピンクが結成されました。誕生譚としては大変分かりやすいです。

 この当時、「TRA」なる先鋭的なカセット・マガジンがありましたが、ピンクの音源はまずこのTRAに収録されました。1984年のことです。その後、CMタイアップを土産にソニーからデビュー・シングルを発表します。ここでおピンク兄弟からPINKに改名を余儀なくされました。

 しかし、ソニーとは未来像をめぐって意見が合わずに訣別、新たにアルファ・ムーンに移籍して発表されたのが、デビュー・アルバムとなる本作品「ピンク」です。さすがはスーパー・グループ、すでに完成品ですからリスクは小さいわけで、あっという間にレーベルが決まります。

 ピンクのメンバーは、ボーカルの福岡ユタカ、キーボードのホッピー神山、ギターの渋谷ヒデヒロ、ベースの岡野ハジメ、ドラムの矢壁アツノブ、パーカッションのスティーヴ衛藤の6人です。いずれも結成前と解散後に分厚いストーリーのある人々です。

 さらに本作品にはゲストとして、布袋寅泰や吉田美奈子、BBクイーンズの坪倉唯子、サックスの横山英規、キーボードの川島バナナなどが参加しており、いかにも当時の音楽シーンの中心付近にいたバンドらしさを感じたものです。それもディープな音楽業界の。

 そんなわけですから、本作品はデビュー作ですけれども、初々しいなどという言葉は全くあてはまりません。すでにして風格を感じる完成品です。各メンバーは卓越した技量をもっており、それを遺憾なく発揮したセンスのよいサウンドにはため息がでます。

 この頃はトーキング・ヘッズやポップ・グループ一派などを中心にニュー・ウェイヴがファンクへの傾倒を深めていた時期ですけれども、ピンクもその硬質なファンク・サウンドが際立っておりました。とりわけ岡野のベースの凄いこと凄いこと。

 本作品のキャッチフレーズは「無国籍者の浪漫主義」でした。ルーマニアの作家、エミール・シオランのアフォリズムから引用されたものだそうです。この浪漫主義には大いに同意します。福岡のボーカルが醸し出す情感豊かな世界がピンクの特色でもあるからです。

 録音も素晴らしいです。LPの音質にこだわったために収録時間をかなり抑えたそうですし、今聴いてもこの時代の録音とは思えないほどのクリアなサウンドです。今井俊満の絵画を用いたジャケットも素晴らしいですし、何だか奇跡のような一枚です。かっこいいです。

Pink / Pink (1985 ムーン)



Tracks:
01. Dance Away
02. Illusion
03. Young Genius
04. Zean Zean
05. Secret Life
06. Soul Flight
07. Ramon Night
08. 人体星月夜II

Personnel:
福岡ユタカ : vocal
矢壁アツノブ : drums
ホッピー神山 : keyboards
岡野ハジメ : bass
渋谷ヒデヒロ : guitar
スティーヴ衛藤 : percussion
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横山英規 : sax
吉田美奈子 : voice
布袋寅泰 : guitar
BANANA : keyboards
高田コータロー : guitar
坪倉唯子 : voice