北欧諸国の音楽といえばヘヴィー・メタルかジャズという印象があります。ジャズの方はECMレーベルに北欧のミュージシャンが多かったことが私の認識に大きく影響している気がします。佇まいが圧倒的にクールなジャズ・サウンドを聴くと、ああ北欧だと思うわけです。

 本作品はフィンランドのヘルシンキをベースに一味違った現代ジャズ作品を多数リリースしているウィー・ジャズ・レーベルから発表されたアンティ・ロジョネンをリーダーとするクインテットのセカンド・アルバムです。タイトルは「サーカス・シタデル」とされています。

 ロジョネンは1980年生まれのベーシストで、ご多聞に漏れず、若い頃にジャコ・パストリアスに魅了されてベースを手にしたアーティストです。6歳の時にピアノを習い始め、トランペットやエレキ・ギターなどもプレイしながら、やがてベース一本となっています。

 アンティ・ロジョネン・クインテット・イーストと名付けられたクインテットは、ロジョネンのダブル・ベース、ヨーナス・リーパのドラムス、ヴェネリ・ポジョラのトランペット、ミッコ・インナネンのアルトとバリトン・サックス、ユッシ・カンナステのテナー・サックスから構成されています。

 このラインナップはロジョネンを始めとして、いずれもがフィンランドのジャズ・シーンにおいて大活躍している面々で、それぞれがリーダー作も発表していて、いわばフィンランド・ジャズのスーパー・グループといえるクインテットなのだそうです。熱いですね。

 ロジョネン自身はニュージャズ・シーンを代表するファイヴ・コーナーズ・クインテットや、同じくフィンランドのピアニスト、ヨーナス・ハーヴィストのトリオなどで活躍しており、いずれも来日公演を行っていますから、日本でもそこそこ人気があるベーシストです。

 本作品で演奏している楽曲はロジョネンのオリジナルです。スーパーグループらしく、各演奏者の自由度を高めに設定しているのだそうで、各自のソロの他、クインテット内のさまざまな組み合わせによる集団即興が楽しめる仕掛けになっています。

 ロジョネンはジャコに入れ込んだ後、ダブル・ベースを手にして昔の黄金時代のジャズを勉強しています。そのためか、ロジョネンの作品にはジャズ黄金時代の香りがします。実際、ウィー・ジャズの公式サイトでは本作品に「#ポスト・バップ」とタグをつけています。

 ポスト・バップはポストとはいえ、1950年代後半に出現したジャンルですから、もう半世紀以上前のジャズです。ただ、その自由な形から現代のジャズにも大きな影響を与えていますから、ロジョネンのクラシックな香りがしつつも、確かな現代ジャズに当てはまるのでしょう。

 ここで聴かれるサウンドは昔のジャズのリバイバルなどではありません。ところどころ香りがするものの、アメリカの新世代のジャズなどとも通じる、ヒップホップなどを経た新しい感覚が横溢しています。色気もたっぷりで、艶めかしくもクールなサウンドが素敵です。

 それに何よりも録音が素晴らしい。指使いが聴こえるようなダブル・ベースのサウンドや臨場感あふれる管楽器の音色など恐ろしいほどです。数学者の板書を思わせるジャケットのひょうひょうとしたイメージもぴったりの新感覚のジャズだといえます。かっこいいです。

Circus/Citadel / Antti Lötjönen Quintet East (2023 We Jazz)



Tracks:
01. Circus / Citadel Pt. I
02. Circus / Citadel Pt. II
03. Circus / Citadel Pt. III
04. Ode To The Undone
05. Defenestration
06. (for) Better People
07. It Goes On

Personnel:
Antti Lötjönen : double bass
Mikko Innanen : alto sax, baritone sax
Jussi Kannaste : tenor sax
Verneri Pohjola : trumpet
Joonas Riippa : drums