ロック/ポップス界に特異な位置を占めるバンド、スパークスのデビュー・アルバムです。後のスパークスらしからぬ地味なジャケットですけれども、中身はもうすでに完成品です。実にスパークスらしいサウンドが展開する素敵なアルバムになっています。

 本作品は当初、ハーフネルソンという題名、バンド名で発表されましたが、まるで売れませんでした。そこでレコード会社からの提案を受けてバンド名をスパークスとし、タイトルも変えて1年後に発売されました。その際、ジャケットも変更されています。

 会社の提案はスパークス・ブラザーズでした。バンドの中心がロンとラッセルのメイル兄弟だったことが、マルクス・ブラザーズを想起させての提案です。言葉を失ったメイル兄弟は何とかブラザーズを落とさせてスパークスとすることで手を打ったのだそうです。

 スパークスはメイル兄弟とギターを弾いているアール・マンキーの三人によって結成されました。音楽的には初期のフーやキンクスなど英国のバンドをカバーしていたこと、とりわけラッセルがもともとは映画監督志望だったことが彼らの音楽の背後に見え隠れします。

 やがてドラムとベースを加えて5人組となったスパークスはデモ・テープを作成します。テープはあちこちに持ち込まれますが、面白がられるものの契約には至りません。そこに登場したのが顔役トッド・ラングレンです。彼の口利きでベアズヴィルとの契約が決まります。

 何でもラングレンの彼女でもあり、直後にラッセルと付き合うことにもなるGTOズのミス・クリスティーンがラングレンにテープを聴かせたのだそうです。ラングレンはこの出会いを蝶の採集になぞらえています。待ち望んでいた新種を発見した興奮、です。

 さっそく制作されたのがデビュー作となる本作品です。デモの完成度は極めて高く、ラングレンはそれをハイファイで忠実に再現することに徹したと言っています。さすがはスパークスです。この時から50年後、ラングレンとスパークスは共演することになります。

 スパークスは、デビュー当時、こんな音楽をやっていたのか、と驚く人はそういないのではないでしょうか。録音に時代を感じますけれども、それを除けば半世紀以上に及ぶスパークスのキャリアのどこにおいてもおかしくないくらいスパークスのサウンドです。

 映画「スパークス・ブラザーズ」の中で、ラッセルがスパークスは生涯に遅い曲と早い曲の2曲しか作っておらず、それをさまざまにアレンジしているだけだとジョークを飛ばしていますけれども、その発言にも一理あるなと思わせるくらいのスパークス・サウンドです。

 残念ながら、この作品は売れませんでした。名前を変えて再発した時に冒頭の「ワンダー・ガール」がローカル・ヒットした程度で彼らの想定とはかけ離れた結果になっています。一見、奇妙でも変でもないのに、唯一無二のスパークスの世界は受け入れに時間がかかります。

 この中では「スロウボート」と「ノー・モア・ミスター・ナイス・ガイ」が遅い曲と早い曲の典型です。どちらもスパークスの半世紀にわたって展開する世界を見事に表しています。商業的には失敗したとはいえ、永遠の命を得た素敵なデビュー・アルバムです。

Sparks / Sparks (1971 Bearsville)



Tracks:
01. Wonder Girl
02. Fa La Fa Lee
03. Roger
04. High C
05. Fletcher Honorama
06. Simple Ballet
07. Slowboat
08. Biology 2
09. Saccharin And The War
10. Big Bands
11. (No More) Mr. Nice Guys

Personnel:
Ron Mael : organ, piano
Russell Mael : vocal
Harley Feinstein : drums
Earle Mankey : guitar
Jim Mankey : bass