ジョン・ライドンのパブリック・イメージ・リミテッドによる11作目のアルバム「エンド・オブ・ワールド」です。前作からは8年ぶりですが、その前作は前々作から20年ぶりでしたから、これでも比較的短いインターバルだといえないこともありません。

 驚くべきことにこの三作でメンバー・チェンジはありません。かつてないほど安定したバンドになっています。演奏している四人の写真を見ると、年齢相応の暖かな凄味が漂ってきます。ライドンはある意味で理想的な歳の取り方をしたと思います。

 前二作に引き続いてライドン自身の手になる絵をジャケットに配しています。三作並べると絵の内容は異なるものの、同一人物による絵画ですから、同じトーンに貫かれています。サウンドの方もこれまでのPILそのもの、ジャケットの通りです。

 とはいえ、過去のサウンドを再生産しているわけではありません。終始一貫変わらぬPILのサウンドでありながら、現代的に再生されています。初期の頃からのファンで、同じように年齢を重ねてきた私としては涙が出るくらい嬉しいです。最高のサウンド。

 本作品の発表に先立って、PILはユーロヴィジョン・ソング・コンテストに参加しています。決勝には行けませんでしたけれども、何ともロンドン・パンクのカリスマたるライドンらしい、冗談とも本気ともつかない所業ですけれども、これもまた羨ましい自由さです。

 さらに身をつまされるのは、アルバムのリリースを控えて、40年以上も連れ添った最愛の妻ノラ・フォースターが亡くなってしまったことです。これもまた歳を重ねれば避けられないことです。ライドンの悲しみ方もまた実に年齢相応で立派そのものです。

 本作品の最後に収録され、シングル・カットもされた「ハワイ」は奥さんに捧げたラヴ・ソングです。PILらしからぬ、と言われることもありますが、これもまたPILのサウンドそのものです。ライドンのボーカルは愛に満ちていて、新境地ともいえるのではないでしょうか。

 「この曲は、人生の旅路で最も大切な人とともに厳しい時を過ごす全ての人に捧げます。最終的には愛がすべてを克服するという希望のメッセージでもある」と、ライドンは語っています。ルー・エドモンズの弾くサズーも素晴らしい名曲であろうと思います。

 元ダムドのエドモンズ、元ポップ・グループのドラマー、ブルース・スミスにジャズ畑のベーシスト、スコット・ファースを加えたライドンのカルテットが奏でるサウンドは、パンク/ニュー・ウェイブの香りを残しつつ21世紀に進化しています。いい年季の入り方です。

 特にスミスのドラムは21世紀型PILサウンドそのものです。もうこのドラムとライドンのボーカルだけあれば私は満足です。このバンドと一緒に歳をとってきたのだなとしみじみ思います。そしてまだまだ引退していない。前を向いて進化し続けています。

 どうしてもライドンのことを思うと感傷的になってしまいます。ボートラには♪パンク、パンク♪と叫ぶ「パンケンシュタイン」が置かれて、その感傷が笑われてしまう。そんなところもまた嬉しい。とにもかくにもジョン・ライドンは死なず、その音楽は同時代に光り輝いています。

End of World / Public Image Ltd. (2023 PIL)



Tracks:
01. Penge
02. End Of The World
03. Car Chase
04. Being Stupid Again
05. Walls
06. Pretty Awful
07. Strange
08. Down On The Clown
09. Dirty Murky Delight
10. The Do That
11. LFCF
12. North West Passage
13. Hawaii
(bonus)
14. Punkenstein

Personnel:
John Lydon
Lu Edmonds
Scott Firth
Bruce Smith