いよいよ♪どもありがっと、ミスター・ロボット♪がやってきました。歌詞に日本語が入っていることで日本でも大いに話題となってCMでも流されたので、普段ロックを聴かない人にも届いたため、スティクスは「ミスター・ロボット」の一発屋だと思っている人もいそうです。

 洋楽のスターが日本語で歌ってくれたというだけで、メディアはありがたがっていましたが、間抜けな日本語に脱力した人の方が多かったと思います。日本人の英語は間抜けに聴こえると英国人の友人がぽろりと言っていたことを思い出して、こういうことかと思いましたね。

 本作品はスティクスの11枚目、原題は「キルロイ・ワズ・ヒヤー」、邦題は日本語に敬意を表して「ミスター・ロボット」です。前作以上にばりばりのコンセプト・アルバム、いわゆるロック・オペラになりました。スティクスの進む道はロック・オペラだと見据えたのでしょう。

 原題はアメリカの国民的ジョークともいえる決まり文句で、落書きによく使われるそうです。それを逆手にオペラの主人公の名前にキルロイが使われました。正確にはロバート・オリン・チャールズ・キルロイ、頭文字を並べてROCKが主人公です。

 お話はファシスト政権によってロックが禁止された世界で、それに抗う若者を描いています。ありがちな話ではありますが、この頃、米国上院で反ロック・キャンペーンが行われており、スティクスもやり玉にあがっていたことを考えると意外にリアルな話でもあります。

 しかし、そこはスティクスです。ここにデニス・デヤングが初来日公演を行った際に日本のテレビで見て感銘を受けたというロボットが登場したりして、エンターテインメント性が高く、あまりシリアスには受け止められませんでした。何とも残念です。

 また、本作品はロック・オペラとはいえ、アルバムを聴いているだけでは筋立てはほとんど分かりません。むしろストーリーはメンバーが役者として登場する同名のショート・フィルムに委ねられているといってよいでしょう。実際、公演では冒頭にフィルムが流れます。

 したがって、本作品を鑑賞するに際して筋書きはほとんど無力です。各楽曲もそこまでオペラに寄りそっているようには思えません。そうなると独りよがりではないかとの批評を招くのはよく分かります。やはりロック・オペラは難しいと言わざるを得ません。

 一方で、各楽曲はいつものスティクスです。オペラの中心はデヤングですけれども、トミー・ショウは、渾身のバラード「時が過ぎれば」、ジェームズ・ヤングはばりばりのロック「ヘヴィー・メタル中毒」などのしっかりと佳曲を提供しています。

 日本語話者には際物にしか聴こえない「ミスター・ロボット」と同じくデヤング作の「愛の火を燃やせ」はシングル・カットされて全米トップ10ヒットを記録しています。アルバムも全米3位とまずまずのヒットを記録しましたが、300万枚には届かず、暗雲が見えてきました。

 このオペラ路線はデヤングとヤング・ショウの間の溝を深めることとなり、結果的に本作品が現体制最後のスタジオ作となりました。やはり迷走気味だったんだな、と思うと、間抜けな日本語が呪いのようにも感じてしまいます。何事もやり過ぎはよくないですね。

Kilroy Was Here / Styx (1983 A&M)



Tracks:
01. Mr. Roboto
02. Cold War 冷たい戦争
03. Don't Let It End 愛の火を燃やせ
04. High Time
05. Heavy Metal Poisoning ヘヴィー・メタル中毒
06. Just Get Through This Night ジス・ナイト
07. Double Life
08. Haven't We Been Here Before 時が過ぎれば
09. Don't Let It End (reprise) ロックン・ロールの火を燃やせ

Personnel:
Dennis DeYoung : vocal, keyboards, accordion
James "JY" Young : vocal, guitar
Tommy Shaw : vocal, guitar, shamisen, vocoder
Chuck Panozzo : bass
John Panozzo : drums, percussion
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Steve Eisen : sax
Dan Barber, Mike Halpin, Michael Mossman, Mark Ohlson : horn