奇妙なオブジェクトが置かれることによって、幸せな一家だんらんの写真のうさん臭さが強調されているようです。ヒプノシスによるジャケットは日常を非日常に変えるレッド・ツェッペリンの音楽の不思議な魅力を余すところなく表現しているように思います。

 ツェッペリンの7枚目のアルバム「プレゼンス」です。私はこの作品をツェッペリンの最高傑作だと信じて疑いません。ロックの進化系統樹にあって、ツェッペリンだけで一つの枝になっているであろう唯一無比の存在感をもった彼らにあってもとりわけ輝いています。

 横綱昇進後、順風満帆だったツェッペリンですが、1975年8月からのワールド・ツアーを前にギリシャでロバート・プラントが自動車事故で重傷を負う災難に遭遇します。ツアーはキャンセルされましたが、ケガが足だったことが幸いし、静養先で新作の楽曲作りを始めました。

 他のメンバーもプラントのケガをきっかけに創作意欲がより高まったのか、ツェッペリンは同年11月には早くもミュンヘンのスタジオに入り、なんと3週間で全7曲を仕上げてしまったということです。一気呵成とはまさにこのこと、一筆書きの勢いです。

 アルバムは代表曲中の代表曲「アキレス最後の戦い」で幕を開けます。10分を越える曲ながら、その疾走感は半端なく、なりだしたら一気に聴き終えてしまう文句ない傑作です。全体の構成も素晴らしく、まさにハードロックの鑑、私は彼らの曲の中でこの曲が一番好きです。

 全編を通して、今回はキーボードなども使われていないそうで、ドラム、ベース、ギター、ボーカルだけですべてが成り立っています。トラッド調の曲もなく、アコースティックもなし。ややスローなブルース「一人でお茶を」を含めて、ハードでヘヴィーなロックばかりです。

 前作がバラエティに富んでいて、ツェッペリンの懐の深さを見せつける内容だったのに対して、こちらは全体が同じ色合いに染め上げられています。これこそがレッド・ツェッペリンというサウンド展開です。横綱相撲とはこういう相撲のことを言うのでしょう。

 メンバー全員が素晴らしい演奏を繰り広げているのですが、やはりジョン・ボーナムのドラムが凄いです。どすどす地響きを立てて疾走するさまは恐ろしいまでの迫力です。加えて、プラントのボーカルもねっとりとした色気がますます深まりました。かっこいいです。

 タイトルの「プレゼンス」も素敵です。まこと横綱にふさわしい。ジミー・ぺージ・リーダーも本作品を最重要作品で言っているように、自身に満ち溢れた作品です。しかし、本作品は英米で1位、日本でも2位とヒットしたもののこれまでの作品の中では最も売れませんでした。

 それは思うにはったりが少ないからではないでしょうか。これまでの作品には聴く人の思い入れを許容するはったりが効いていましたが、この作品にはそれがあまりありません。神話を共に作っていくという共犯関係に入りにくい。ここには音楽しかない、そんな感じです。

 それだけツェッペリンの面々がリラックスして音楽と向き合った作品とも言えるのではないかと思います。その結果である本作品が悪いわけがない。何やら別のステージに上がって、また一つの高みに達した感じさえいたします。とにかく大傑作です。

Presence / Led Zeppelin (1976 Swan Song)

*2014年4月22日の記事を書き直しました。



Tracks:
01. Achilles Last Stand アキレス最後の戦い
02. For Your Life
03. Royal Orleans
04. Nobody's Fault But Mine 俺の罪
05. Candy Store Rock
06. Hots On For Nowhere 何処へ
07. Tea For One 一人でお茶を

Personnel:
John Bonham : drums
Robert Plant : vocal, harmonica
Jimmy Page : guitar
John Paul Jones : bass