スティクスは「大いなる幻影」の大成功でスタジアム級のバンドにのし上がりました。そんな成功の後の作品は難しいものになるものですが、スティクスはなんとか期待に応える作品を作りました。本作品「ピーシズ・オブ・エイト~古代への追想」です。

 いかにも成功したバンドらしく、ジャケットはかの有名なヒプノシスが担当しています。そうなると俄然プログレ色が強まった感じがするところが面白いです。条件反射のようなものです。実際にはそこまでの変化はありません。いつものスティクスの延長にある作品です。

 スターになったことから、当然のことながら以前とは比較にならないくらいお金が彼らの懐に入ることになりました。売れなかった時代が比較的長いだけに、この変化はスティクスの面々に少なからず影響を与えました。大変分かりやすい話です。

 そのことが本作品に大きく反映されました。タイトルである「ピーシズ・オブ・エイト」とは米国内で1ドル銀貨として流通していたメキシコの硬貨のことです。そのことが示す通り、本作品はお金儲けがいかに人々の人生に大きな影響を与えるかがテーマになっています。

 基本的には金のために夢を売り渡さないということのようですが、スティクスにとってはまさに喫緊の課題でもあったのでしょう。しかし、そこはスティクスです。悲壮感があるわけではありません。本作品も明るくてポップなロックが展開していきます。

 この頃のスティクスはプログレ・ハードなどと呼ばれていました。明るくてポップなハード・ロックなのですが、米国のロック界にしてはプログレ色が強い。お仲間となるのはジャーニーやカンサス、ボストンなどです。無骨なロックではないというというところがポイントでしょう。

 本作品はトミー・ショウ加入後のスティクスの路線を踏襲して、デニス・デヤング、ジェームズ・ヤングとショウの三人がそれぞれ楽曲作りとボーカルを分担しています。それぞれの微妙に異なる個性が全体としてスティクスの音楽性を作っているところも同じ。

 そんなわけでこの頃のスティクスのアルバムは正直に申し上げると私にはあまり区別がつきません。そうなるとシングル・ヒット曲ががぜんアルバムの鍵となります。本作品は、そうです、「ブルー・カラー・マン」と「逃亡者」が含まれているアルバムとして記憶しています。

 この2曲はどちらもトミー・ショウが作曲しており、リード・ボーカルもとっています。なお、ヨーロッパでのみシングル・カットされた「この一瞬のために」もショウの作品です。ただし、慣例を破って、「逃亡者」ではショウではなくヤングがリード・ギターを弾いています。

 本作品は前作同様に米国ではトップ10入りして300万枚を売り上げる大ヒット・アルバムになりました。大成功した後でも大きくスタイルを変えることなく、まずまずファンの期待に応える作品を作り上げたことは大変におめでたいことです。

 なお、邦題に「古代への追想」という副題が添えられています。これは作品の最後の曲「アウ・アク」に引きずられてのことと思われます。アクアクは、ジャック・ヘイエルダールがモアイ像の島、イースター島について書いた著書の名前です。プログレっぽいですね。

Pieces Of Eight / Styx (1978 A&M)



Tracks:
01. Great White Hope
02. I'm O.K.
03. Sing For The Day この一瞬のために
04. The Message
05. Lords Of The Ring 指輪物語
06. Blue Collar Man (Long Nights)
07. Queen Of Spades スペードの女王
08. Renegade 逃亡者
09. Pieces Of Eight
10. Aku-Aku

Personnel:
Dennis DeYoung : vocal, keyboards
James "JY" Young : vocal, guitar
Tommy Shaw : vocal, guitar, mandolin, autoharp
Chuck Panozzo : bass
John Panozzo : drums, percussion