アルゼンチンで結成されたトレスは帰国後すぐにファースト・アルバムを発表しています。そのアルバムはアルゼンチンのあるラジオ局では毎週3回はかけるという約束をしてくれたとのことで、セカンド・アルバムとなる本作品を制作する頃にはまだかかっていたそうです。

 そしてデビュー・アルバムの翌年となる2014年、ブエノスアイレス国際ジャズフェスティバルから招待されて、トレスは再びアルゼンチンに赴くことになりました。本作品はそのお土産的な意味合いもあったのだろうと思います。早々にセカンド・アルバムです。

 本作品は「アルゼンチンの赤い月」と題されましたが、前作に比べるとアルゼンチン色は少し後退しています。純アルゼンチンたるアストル・ピアソラの曲は全7曲中2曲に減り、オリジナルが3曲、ダラー・ブランドの曲が1曲、ブラジルの曲が1曲の構成です。

 ブラジルの曲というのはブラジル・サッカー・チームの応援歌として有名な「トンボ7/4」で、ウルグアイのウーゴ・ファトルーソの曲です。アイアート・モレイラがとりあげて一躍有名になり、日本でもテレビでしょっちゅう流れてきます。こういう曲が一曲あると盛り上がります。

 オリジナルは、早坂紗知が韓国のパーカッショニスト金大煥から教わったという韓国の変拍子をつかった曲「カナビスの輪」、アルトとソプラノの二本吹きを披露する「ブラック・アウト」、そしてRIOが生まれて初めて作曲したというオリジナル「スカイ・イズ・ザ・リミット」の3曲です。

 前二曲は既発曲で変則トリオであるトレスのために編曲されています。さすがに家族です。それぞれに見せ場が用意されており、聴き応えのある演奏が続きます。RIOの初めての楽曲も家族で慈しむように演奏されていて、多幸感を連れてきます。

 永田利樹は家族トリオであることについて、練習する時間が取りやすいことを利点に挙げていました。一方で、家族であるがゆえにやりにくいことは何かと問うと、何でもずけずけ言いすぎることだとおっしゃっていました。20代の若者にだめ出しされることなど普通はないと。

 何となく「今日からはお母さんではなくおかみさんです」という貴乃花親子のことを思い浮かべていましたが、やはり音楽の世界は違います。老いも若きも平等の地平に立っています。親子であってもそこは対等の関係、相撲を思い出した私は恥ずかしいです。

 どんなに言い争いをしても一緒に演奏すれば分かり合えるのだそうです。「私たちは音楽で結びついている」。理想の親子関係ですね。血は水よりも濃いけれども、音楽よりも薄い。トリオの演奏は家族ならではの親密さなどと雑にくくってしまってはいけません。

 アルト&ソプラノ・サックスとバリトン・サックス、そこにベースという変則的なトリオですけれども、それだからこそ融通無碍でもあるのでしょう。地に足がついた、肉体を感じる演奏はとても開放的です。アルゼンチンで愛でられるのもよく分かります。

 ここで取り上げたブランドの曲は進みすぎた文明に対して一休みしようというメッセージが込められています。トリオの演奏は前衛を追い求めすぎることなく、音楽の根本に立ち返っているように感じます。何ともおおらかで生き生きとした音楽です。これもまた傑作です。

La Luna Roja / TReS (2014 NBAGI)



Tracks:
01. Adiós Nonino
02. Ring Of Cannabis 2014
03. Water From An Ancient Well
04. Lunfardo
05. Tombo 7/4
06. Black Out 2014
07. The Sky Is The Limit

Personnel:
早坂紗知 : alto sax, soprano sax
永田利樹 : bass
RIO : baritone sax