スティクスの名声を確立した大傑作「大いなる幻影」です。メジャー・レーベルA&Mに移籍してから順調にヒット・チャートを賑わせてきましたけれども、いよいよ移籍後3作目にしてトップ10入りする快挙を達成しました。しかも2年以上もチャートインするロングセラーです。

 ジャケットからして気合が入っています。シュールレアリズムの巨匠にして人気の高いルネ・マグリットもどきの絵になっており、ファンタジー系プログレッシブ・ロックの王道をいっています。「白紙委任状」なる絵が元ですが、そのまま持ってきてはいないのが面白いです。

 日本盤ではアルバム・タイトルのみならず各楽曲に邦題がつけられてプログレ・ムードを高めています。「大いなる幻影」で始まり、「永遠の航海」、「荒野の旅人」や「幻想の城」などを経て、最後は「幻影の終わりに」で締めくくるというドラマ性が高い仕様の邦題です。

 前作から加入したトミー・ショウはすっかりバンドと一体化しており、デニス・デヤング、ジェームズ・ヤングとともに曲作りとボーカルを分け合っています。誰が書いても、誰が歌っても、これはスティクスです。これが全盛期のバンドのあるべき姿です。

 ここに忘れてならないのはパノッツォ兄弟によるリズム・セクションです。兄弟というだけで息があっているような感覚に陥りますから強い。盤石のリズムにのせてフロントマン三人は気持ちよくスティクス・サウンドを奏でていく。上り調子のバンドはいいですね。

 本作品がたとえば前作と大きく違うかといえばそんなことはありません。さなぎが羽化したかのような断絶はありません。一見そうかなと思ってしまいますが、本作品はトータル・アルバムであるわけでもありません。スティクスの歩みは着実です。

 しかし、確かに本作品は気合が入っています。二曲のシングル・ヒット、トップ10入りしたデヤング作の「永遠の航海」と、これまた29位と健闘した「怒れ!若者」を含むA面はキャッチーで明るいロック・ナンバーが並んでいます。シンセも目立ちます。

 そしてB面です。こちらはヤング、ショウ、デヤングがそれぞれ一曲ずつ提供しているのですが、こちらはいずれもドラマチックな曲となっており、スティクス流のプログレ・サウンドが展開していきます。この対比がアルバムに豊かな表情を与えています。

 最後の曲「幻想の終わりに」ではそれまでの曲のテーマを織り込むことによって、トータル・アルバム風の形を作ることに成功しています。通算7作目、メジャー3作目ともなるとアルバム作りにも余裕が見てとれます。まさに順風満帆、風を受けて進んでいます。

 勢いもあるし、曲作りもサウンド作りも堂に入ったものですし、非の打ちどころのない作品であるといえます。あまりに出来すぎた感じもしないではありません。ひねった曲であっても、ひたすら明るいボーカルのおかげで影が見当たらない、そんな感じです。

 スティクスをスーパースターにのし上げた傑作ですし、しっかりと世間の支持を得たベストセラーでもあります。素直にいいアルバムなのですが、この当時はプログレという言葉を使って形容されることに違和感を感じて少々距離を置いてしまっておりました。反省。

The Grand Illusion / Styx (1977 A&M)



Tracks:
01. The Grand Illusion 大いなる幻影
02. Fooling Yourself (The Angry Young Man) 怒れ!若者
03. Superstars
04. Come Sail Away 永遠の航海
05. Miss America
06. Man In The Wilderness 荒野の旅人
07. Castle Walls 幻想の城
08. The Grand Finale 幻影の終わりに

Personnel:
Dennis DeYoung : vocal, keyboards
James "JY" Young : vocal, guitar, synthesizer
Tommy Shaw : vocal, guitar
Chuck Panozzo : bass
John Panozzo : drums, percussion