スティクスのメジャー移籍第二弾「クリスタル・ボール」です。前作がまずまずのヒットを記録したことで、ますます活躍が期待されたスティクスは全米ツアーを敢行します。しかし、そんなスティクスを激震が襲います。ギターのジョン・クルリュウスキが脱退してしまいました。

 脱退の主な理由は家族との時間を確保することです。単身赴任を終えて、これからは家族と過ごしたいと語っていた先輩が、ほんの3か月で自ら志願して再び単身赴任されたのを目の当たりにしたことがある私としては、クルリュウスキの幸せをお祈りせざるをえません。

 さて、禍福は糾える縄の如しとはよく言ったもので、このメンバー交代劇は結果的に吉とでました。どたばたの中で白羽の矢を立てたのがトミー・ショウです。シカゴでもステージに立って活躍していたMSファンクなるバンドの若きギタリストでした。

 ショウによればオーディションではギターを弾くまでもなかったようで、デモ・テープでの演奏と、何よりもショウが「レディ」の高音ハーモニーに対応できるという事実でもってバンド入りが決まりました。後知恵で申し上げれば、これは運命の出会いでした。

 本作品は危機を乗り切った新生スティクスの第一弾となります。ショウはいきなり大活躍の場を与えられています。全7曲中3曲でリード・ボーカルをとっていることに加えて、5曲で作曲のクレジットを与えられています。そのうち1曲は単独名義です。

 制作陣は前作と同じで、本作品もインディーズ時代とは異なるメジャー仕様の堂々たるサウンドとなっています。ある種飛び道具の役割を果たしていたクルリュウスキが抜けて、スティクス以上にスティクスらしいショウの加入でアルバムの統一感が増しました。

 新加入メンバーにありがちなことですが、確かにショウはこれまでのスティクスのサウンドを凝縮したような存在でした。流麗なギター、ハイトーンのボーカルは前作と並べてもまるで違和感がありません。メンバー交代に気づかない人もいるのではないかと思うほどです。

 アルバムは恒例に戻って、ジェームズ・ヤングが中心となる明るいハード・ロック曲「プット・ミー・オン」で幕を開けます。いきなり分厚いコーラスが出てきて、スティクス健在をアピールしているかのようです。バンドは意気軒高だったことの証左です。

 続く「マドモワゼル」はショウの曲で、リード・ボーカルもショウです。最初にシングル・カットされてトップ40ヒットを記録しました。続くデニス・デヤングの「ジェニファー」、またまたショウの「クリスタル・ボール」は、第二弾、第三弾のシングル・カット曲です。

 両者はさほどヒットしていませんが、タイトル曲はコンサートの定番となり、長らくバンドの人気曲となります。B面に移ると、またまたショウの曲に続いてデヤングのプログレ的な展開を示す曲が続きます。間にはドビュッシーの「月の光」のピアノ・ソロが入ります。

 これまでのスティクスを凝縮したような作品で、明るくポップでなおかつ品のいいロック・サウンドがつまった傑作だと思います。しかし、チャート・アクションは期待したほどではなく、大傑作とされる次作に隠れて何となく影の薄いアルバムになってしまいました。残念です。

Crystal Ball / Styx (1976 A&M)



Tracks:
01. Put Me On
02. Mademoiselle
03. Jennifer
04. Crystal Ball
05. Shooz
06. This Old Man
07. Clair de Lune / Ballerina 月の光/バレリーナ

Personnel:
Dennis DeYoung : vocal, keyboards
James "JY" Young : vocal, guitar
Tommy Shaw : vocal, guitar
Chuck Panozzo : bass
John Panozzo : drums, percussion