器量の大きさを感じるのはどういう時なんでしょうか。私はこのオールマン・ブラザーズ・バンドの演奏を聴くたびに器量の大きさを感じます。私は彼らをアメリカン・ロックの横綱だと考えているわけですが、それは器量の大きさ故に他なりません。

 売上で彼らをしのぐバンドはいくらでもあります。それに、彼らは活動期間こそ長いものの、いわゆる全盛期はほんの数年でした。それなのに、彼らは米国の国民的なバンドとして尊敬を集めています。それは器量の大きさのなせる業でしょう。

 この作品は彼らのデビュー作です。オールマンズは、ソウルの天才オーティス・レディングのマネージャーをしていたフィル・ウォルデンが、セッション・マンとして活躍するデュアン・オールマンの才能にほれ込んだところから始まります。

 「スタジオ・ワークは全くひどいものです。スタジオでぶらぶらしてそれでお金をもらうだけです」と不満がたまっていたデュアンはまるでロール・プレイング・ゲームで勇者が仲間を集めるような経緯を経て、最高のメンバーを集めることに成功します。

 そして、ウォルデンが立ち上げたカプリコーン・レコードから発表されたのがこの作品ということになります。バンド名の通り、天才ギタリストのデュアン・オールマンと、オルガンとボーカルの弟グレッグ・オールマンの兄弟を中心とするバンドでした。

 それに大所帯でした。ギターはディッキー・ベッツとのツイン・リード、ドラムスもジェイモーとブッチ・トラックスのツイン・ドラム、それにベースのベリー・オウクリーを加えて6人組です。あれっ、そんなに多くないですね。ホーンが入ってませんからね。失礼しました。

 さて、このバンドは私にとってブルースの先生にあたるわけですけれども、さほどブルース、ブルースしているわけではありません。彼らのサウンドはブルース、ロック、ジャズを絶妙にブレンドした洗練された泥臭い音楽です。そこがちょうどよかったわけです。

 まさに「サザン・ロック」としか言い様のない、とてもスケールが大きくて懐が深いサウンドです。底なし沼のような奥行きが感じられます。20歳そこそこの若者たちの出す音とは信じられないコクとツヤが見事です。この老成ぶりが何ともうらやましい。

 デビュー作からして、デュアンとディッキーのギターの掛け合いは完成されていますし、ツイン・ドラムの迫力ある自在なリズムも素晴らしい。このサウンドにはこの声しかありえないと思われるグレッグのボーカルも凄いし、南部そのもののオルガンもいい。

 ところが、このアルバムは大してヒットしませんでした。チャート的には188位と振るいません。彼らはそんなことにはめげず、尋常じゃない数のライブをこなしていきます。それがさらに彼らを熟成させるわけですから、これはよかったとしましょう。

 全7曲のうち、2曲がカバーです。「ドント・ウォント・ユー・ノーモア」は英国のブルース・バンドのスペンサー・デイヴィス・グループ、「トラブル・ノー・モア」がブルース大王マディ・ウォーターズの曲ということで、要するにブルースのカバーです。

 残りの5曲はグレッグ・オールマンのペンになる曲で、これがまた古くからあるスタンダードのような顔をしています。ブルースのカバー曲と並んで全く違和感がないのはバンドの力量を示していると思います。

The Allman Brothers Band / The Allman Brothers Band (1969 Capricorn)

*2013年8月14日の記事を書き直しました。

参照:「ロック・ベスト・アルバム・セレクション」渋谷陽一(新潮社)



Tracks:
01. Don't Want You No More
02. It's Not My Cross To Bear
03. Black Hearted Woman 腹黒い女
04. Trouble No More
05. Every Hungry Woman
06. Dreams 夢
07. Whipping Post

Personnel:
Duane Allman : guitar
Gregg Allman : organ, vocal
Dicky Betts : guitar
Berry Oakley : bass
Butch Trucks : drums, timbales, maracas
Jai Johanny Johnson : drums, congas