ディー・クルップスはツィックツァック・レーベルから発表したシングル「真の労働、真の報酬」がヒットしたおかげでメジャー・レーベルから引く手あまたの存在になりました。その結果、WEAとの契約が成立し、メジャー・デビュー第一弾「全速前進」が発表されました。

 クルップスの中心となるユルゲン・エングラーとベルンハルト・マラカの二人は、ドイツのクラッシュと呼ばれたメイルの出身です。うかつにも見逃してしまっていました。パンクを経て、ニュー・ウェイヴへと進む道筋を彼らも歩んでいたのでした。

 その道筋の延長上には、これまたありがちなデジタルの世界が待っていました。本作品では全曲がシーケンサーを使ったビートが基調となっています。当時のパンク・ロッカーがたどった標準的な道のりです。実に分かりやすい人たちです。

 さて、本作品の製作途中で、ラルフ・デルパーが脱退しています。本人によればクビを宣告されたとのことです。デルパーはこの後イギリスにわたり、トレバー・ホーンのプロデュースでプロパガンダを始め、大きなヒットをとばすことになります。

 デルパーの代わりに迎えられたのはティナ・シュネッケンブルガーです。彼女はSYPHのメンバーの家のパーティーで演奏したのがきっかけで音楽活動を始め、ホルガー・シューカイの影響を受け、DAFのステージで活躍していたという、これまた分かりやすい人です。

 本作品には一部デルパーも参加していますが、大部分はエングラー、マラカ、シュネッケンブルガーのラインナップで制作されています。基本的にはシンセ・ビートとお手製のシュターロフォンなる楽器が融合したサウンドで、そこにスローガン風の歌がのっかります。

 「製鉄所交響曲」の凄味のあるサウンドとはかなり異なり、とてもノイエ・ドイッチェ・ヴェレらしいサウンドになりました。DAFのようでありますし、デア・プランなどの諧謔派とも相性のよいサウンドでもあります。全体にもっさりしているところもこの頃のドイツ・サウンドの魅力です。

 本作品には「真の労働、真の報酬」もまたまた含まれています。さらに、スエザン・スタジオからの再発盤にはその7インチおよび12インチ・ミックスもボートラで追加されるという念の入りようです。それだけ彼らの代表曲であるということなのでしょう。

 エングラー曰く、「歌詞はミニマリスティックでスローガン風。楽観主義の強い精神を持ったものだ」と、そのポジティブなメッセージを自賛しています。そして、アルバムには当初から独語の歌詞に加え、英語と日本語の訳詞が添えられていました。自信の表れです。

 一説にはロック・マガジンの阿木譲編集長の訳だとのこと。このうち「真の労働」の一節♪俺の身体の筋肉はどれをとっても機械だぜ♪があの電気グルーヴの曲になったことで話題になりました。彼らのメジャー第二弾「UFO」所収の楽曲です。

 そんな話題も含みつつ、ジャケットのいなたい感じも含めて、ノイエ・ドイッチェ・ヴェレを代表するアルバムとして記憶に残るものになりました。クルップスはこの後、英国に活動の場所を移すことを決め、さらに七変化を続けていくことになります。面白いバンドです。

Volle Kraft Voraus! / Die Krupps (1982 WEA)



Tracks:
01. Volle Kraft Voraus
02. Goldfinger
03. Für Einen Augenblick
04. Tod Und Teufel
05. Das Ende Der Träume
06. Neue Helden
07. Wahre Arbeit - Wahrer Lohn
08. …Denn Du Lebst Nur Einmal
09. Zwei Herzen, Ein Rhythmus
10. Lärm Macht Spaß
(bonus)
11. Wahre Arbeit - Wahrer Lohn (7" version)
12. Goldfinger (English version)
13. True Work - True Pay
14. Goldfinger (12" remix)

Personnel:
Jürgen Engler : vocal, stahlofon, syncussion, fanfare, computer drums, Casio, Synthesizer, effect
Tina Schnekenburger : syncussion, effect
Bernward Malaka : bass
Ralf Dorper : syncussion