ツェッペリンの5作目は前作同様ジャケットには一切文字がありません。しかし、レコードを入れる内袋にはツェッペリン史上初めて全曲の歌詞が印刷されており、さらにアルバムにつけられたタイトルが書かれています。タイトルがついたのも初めてのことでした。

 前作から1年半の間をあけて満を持して発表されたことから分かる通り、ツェッペリンは横綱としてじっくり制作に取り組みました。広瀬和生氏のライナーによれば、彼らは「アルバムが出来上がってから初めて発売日を考えてくれ」という態度に出ていたということです。

 結果はこれまた全米1位となり、39週間も40位以内に留まるヒットとなりました。そして、確かこの作品の頃から、ツェッペリンの新作が発表されると旧譜もトップ100位に顔を出すという恐ろしい売れ方をしていたことを思い出します。そんなバンドは他にはない。横綱ですね。

 ジャケットは発売前に色合いが気に入らないとかトラブルがあったそうですが、ヒプノシスの実に神秘的で素晴らしいデザインです。夕焼けのようなオレンジ色が美しい。内ジャケは早朝か薄暮の空の下で男が少女を生贄に捧げています。ジミー・ペイジのオカルトびいきですね。

 この作品は、初めてタイトルがついたことからも想像できる通り、少しポップになりました。冒頭の「永遠の詩」はドライブするギター・リフに導かれたハード・ロックな曲ですけれども、これまでに比べるとどこかしらポップな風情が漂ってきます。

 続けて演奏される「レイン・ソング」はアコースティックなタッチで始まり、少し「天国への階段」を想起させます。ロバート・プラントのねっとりとした歌い方が大変色気があってよろしいです。しかし、これもトラッドに近いものの、どことなくポップな展開です。

 ポップと言えばB面の方がすごいです。何と言っても日本ではシングル・カットされた「デイジャ・メイク・ハー」、これはレゲエ調です。タイトルは「ジャマイカ」と発音できるそうで、そう読めばよかったのにと思います。先の邦題だとハード・ロックを連想しますよね。

 こんなにポップな曲が入っているにも関わらず、特にツェッペリンらしくないとの評はなかったように記憶しています。どちらかと言えば、3作目のトラッド的展開よりもこちらの方が意外な感じがするのですが、横綱には文句は言わないということでしょうか。

 アルバム中の白眉とも言うべき「ノー・クウォーター」は、アレンジに凝った楽曲で、そこまでポップというわけではありません。しかし、この曲ですら、これまでの作品に比べると心なしか明るい。リスナーをより意識するようになった感じがします。

 全体に明るさとポップさを取り入れて、少し身近な感じがするアルバムになりました。横綱は怒涛の巡業ならぬライブ中心の音楽生活を強いられており、そうした生活がこのような作品を必要としたということなのでしょう。常に観客と共にあるという日常です。

 ところでアルバム・タイトルと同名曲「聖なる館」は本作のセッション時に録音されていますけれども、ここには収録せず、次のアルバムに収録するというややこしいことになっています。さすがは横綱です。些細なことは気にせず、堂々と我が道を歩んでいます。

Houses of the Holy / Led Zeppelin (1973 Atlantic)

*2014年4月17日の記事を書き直しました。



Tracks:
01. The Song Remains The Same 永遠の詩
02. The Rain Song
03. Over The Hills And Far Away 丘のむこうに
04. The Crunge
05. Dancing Days
06. D'yer Mak'er
07. No Quarter
08. The Ocean

Personnel:
John Bonham : drums, chorus
Robert Plant : vocal
Jimmy Page : guitar
John Paul Jones : bass, piano, mellotron, organ, synthesizer, chorus