スティクスの四枚目のアルバムは原題が「マン・オブ・ミラクルズ」でしたけれども、再発時には一度「ミラクルズ」に縮められたことがあります。現在はもとに戻っています。後に大スターになるバンドの売れなかったインディーズ作品にありがちないじられ方です。

 いじられているのはそれだけではありません。B面最初の曲は2回も変わっています。初版はデビュー・アルバムにも入っていた「ベスト・シング」でした。この曲は再度シングル・カットもされましたけれども不発に終わりました。そのためか第二版では「ライズ」に代えられました。

 「ライズ」はニッカボッカーズなるバンドのヒット曲をカバーしたものです。この曲は前作からのシングル「22イヤーズ」のB面曲でした。さらにタイトルが「ミラクルズ」となったバージョンでは同じく前作シングルのB面曲「アンフィニッシュト・ソング」となりました。

 現在は「ライズ」を採用した第二版が標準となっています。スティクスのデビュー作の大部分は本人たちが聴いたこともない曲のカバーばかりだったことを思い出します。ウッドゥン・ニッケル・レーベルの思惑をいろいろと受け入れた挙句の去就なのでしょう。

 本作品は結果的にウッドゥン・ニッケルからの最後のスティクス作品になりました。本作発表後にセカンド・アルバムから改めてシングル・カットされた「レディ」がトップ10ヒットを記録したことをお土産にメジャー・レーベルへの移籍が実現してしまうからです。

 本作品は前作に引き続き全米チャート入りしており、最高位は154位を記録しました。「レディ」のヒット後は再度チャート入りしたものの、セカンド・アルバムほどの瞬発力はありませんでした。プロモーションの問題もあったのかもしれません。

 この作品ではジョン・クルリュウスキの出番がかなり減っています。リード・ボーカルはすべての曲でジェイムズ・ヤングとデニス・デヤングの二人が交代でとっています。また、作曲もわずかに2曲でクレジットされているのみで、それもヤングとの共作扱いです。

 先鋭的な要素をもたらしていたクルリュウスキの作品がなくなったことで、スティクスのサウンドは明るく元気のよいロック作品としての側面がより強く出てきました。要するに後のスティクス・サウンドと違和感なく地続きの作品となってきました。

 特に半分を占めるヤングの楽曲はストレートなロック曲となっており、スティクスのガレージ・バンド的な性格を強調する結果につながっています。それに比べればデヤングの曲はキーボーディストらしく、いささかプログレ的ですが、甘い声が際立つポップなバラード中心です。

 シングル・カットされた曲はありませんけれども、アルバムはキャッチーで生きのよいロックな曲ばかりです。それを彼らの長所であるコーラスを多用した音づくりで料理しており、どこといって非の打ちどころのない作品となっています。メジャー移籍もまあ当然なのでしょう。

 スティクスはここまでで終わっておれば知る人ぞ知るプログレ風味のB級ガレージ・バンドとして今頃再発されてマニアの間で人気が出ていたことでしょう。それもまた面白かったかもしれません。ヒットするかしないかはまさに紙一重、そんなことをしみじみ思わせる作品です。

Man of Miracles / Styx (1974 Wooden Nickel)



Tracks:
01. Rock & Roll Feeling
02. Havin' A Ball
03. Golden Lark
04. A Song For Suzanne
05. A Man Like Me
06. Lies
07. Evil Eyes
08. Southern Woman
09. Chiristopher, Mr. Christopher
10. Man Of Miracles

Personnel:
Dennis DeYoung : vocal, keyboards
James "JY" Young : vocal, guitar
John Curulewski : vocal, guitar, synthesizers
Chuck Panozzo : bass
John Panozzo : drums, percussion