スティクスの3枚目のアルバム「サーペント・イズ・ライジング」です。なんともはや前作からわずか3か月での発売です。発表されたのは1973年10月のことで、この頃は短いインターバルでアルバムが続くことも珍しくありませんでしたが、それにしても3か月は早いです。

 前作からのシングル「レディ」が大ブレイクするのはまだ先のことですから、そのヒットに便乗したわけではありません。シカゴのインディペンデント・レーベルであるウッドゥン・ニッケルが彼らに大いに期待していたということの証左なのではないかと思われます。

 実際、同レーベルからはスティクスの前作が唯一の大ヒットとなるわけですし、その後のスティクスの活躍ぶりをみるにつけ、レーベル・オーナーであるビル・トラウトのバンドを見る目があったと言わざるを得ません。他にバンドを発掘できていれば本物だったのに残念です。

 本作品は前作に引き続いてほぼ全曲がオリジナルです。1曲だけヘンデルの「ハレルヤ」が収録されているところも前作と同様です。クラシック曲を1曲入れるというのはこの当時の彼らのこだわりのようです。プログレ・バンドであるとの自覚の現れでしょう。

 本作品ではデニス・デヤングとジョン・クルリュウスキに加えてギタリストのジェイムズ・ヤングも曲を提供しています。冒頭の「ウィッチ・ウルフ」と3曲目の「ヤング・マン」がそれです。ボーカリストとしてもデヤングと双璧をなすヤングですから、当然両曲ともに自身で歌っています。

 今回、デヤングの曲は3曲で、シングル・カットされた「ウィナー・テイク・オール」を始め、デヤングらしいコンパクトにまとまった生きのいいロック曲ばかりです。今回は彼の得意とするパワー・バラードは影を潜めていますし、ボーカルも多くはヤングに譲っています。

 本作品でもアルバムに彩りを与えているのはクルリュウスキの楽曲です。キング・クリムゾンのファースト・アルバムに影響を受けたとされるタイトル曲や、ドラマティックなアコギの弾き語りにカリプソが続く「アズ・バッド・アズ・ディス」などはとても一筋縄ではいきません。

 「22イヤーズ」はブギウギ調ですし、大噴火したインドネシアの火山から名付けた「クラカトア」はほぼ演説調の曲で、そこからスムーズにヘンデルの「ハレルヤ」に移行していきます。ここらあたりの流れはザ・プログレ・バンドとしてのスティクスの面目躍如たるものがあります。

 こうしたプログレ的なサウンドに大きな役割を果たしているのはデヤングのキーボードです。デヤングは早くからシンセサイザーを使っており、本作品でもムーグ・シンセをばりばり活用するなど、スティクス・サウンドの実験的な側面を支えています。

 ただし、デヤングの指向はがしがしと超大作を生み出していくというよりも、曲を作らせるとむしろポップなパワー・バラード指向ですし、今回は控えめなボーカルも甘いポップ向きです。こうしたさまざまな方向性が雑多に並んでいるところが本作品の魅力なのでしょう。

 デヤングは本作品を酷評しており、音楽の歴史上最悪のアルバムの一つであるかのような言い方もしています。本人には悪いですが、私は結構好きです。これも1970年代前半のまだまだロックが若かった頃のがむしゃらな作品の一つです。洗練など必要ありません。

The Serpent Is Rising / Styx (1973 Wooden Nickel)



Tracks:
01. Witch Wolf
02. The Grove Of Eglantine
03. Young Man
04. As Bad As This
a) As Bad As This
b) Plexiglas Toilet
05. Winner Take All
06. 22 Years
07. Jonas Psalter
08. The Serpent Is Rising
09. Krakatoa
10. Hallelujah Chorus

Personnel:
Dennis DeYoung : vocal, keyboards, accordion
James "JY" Young : vocal, guitar
John Curulewski : vocal, guitar, synthesizer
Chuck Panozzo : bass, chorus
John Panozzo : drums, percussion, chorus
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Bill Traut : sax