スティクスのセカンド・アルバムです。原題は「スティクスII」ですけれども、アルバムの中に大ヒットしたシングルにして、彼らの代表曲の一つ「レディ」が含まれていることから、今の邦題は「レディ/スティクス・セカンド」などとされています。昔は「黄泉の国から」でした。

 バンド名がバンド名なので「黄泉の国から」はまことに正しい邦題ではありますが、アルバムのサウンドから黄泉の国を連想する人もいないと思われますので、ここは「レディ」の方が一般に訴求力を持っていると思います。邦題をつけるのも難しいものですね。

 前作から一年、最大の違いは本作品が1曲を除いてすべてバンド・メンバーによるオリジナル曲で占められていることです。その1曲もバッハのフーガをデニス・デヤングがオルガンで弾いている短いものですから、ここは全曲オリジナルと称してもさほど間違いではありません。

 全8曲中2曲がジョン・クルリュウスキ、その他の曲がデヤング作となっています。デヤングは後の全盛期のメンバーでもありますから、スティクス・サウンドとしてまるで違和感がありませんけれども、大ヒットを待たずに脱退してしまうクルリュウスキの曲が大変面白いです。

 特に「ア・デイ」はクルリュウスキ自身がリード・ボーカルをとるアルバム一の大曲です。夜更けのジャジーなムードがあふれるボーカルから、アグレッシブなツイン・ギター、そしてオルガン・ソロと構成力も優れた佳曲だと思います。これもスティクスだったとは驚きです。

 続く「ユー・ベター・アスク」はがらりと雰囲気の変わったロック・チューンです。この2曲が異彩を放っているおかげで、アルバム全体が活気にあふれた感じになっています。この時点ではスティクスの将来はどの方向に行くのか判然としないところも楽しい所以です。

 さて、問題の「レディ」です。デヤングが高校時代から付き合っていた奥さんを思って書いたラヴ・ソングは当初シングル・カットされた時にはヒットにつながりませんでしたけれども、翌年になって4枚目のアルバムを発表した頃にラジオから火が付きました。

 メンバーが頑張ってシカゴのラジオ局にプロモーションをかけたそうで、その努力が実りました。結果的には全米チャートで6位となる大ヒットを記録しました。初のパワー・バラードと呼ばれることもある力強いバラードには確かにヒットのポテンシャルを感じます。

 「レディ」のヒットはスティクスにメジャー・レーベル、A&Mとの契約をもたらし、スティクスの全盛期につながります。そのことがまた本作品にはね返り、結果的に本作品は全米20位のヒットを記録し、ゴールドディスクに輝きます。デヤングの奥さんのおかげですね。

 デヤングの曲づくりは「レディ」にとどまるわけではなく、本作品後半のコーラスを多用したキャッチーな曲群もなかなかに素晴らしいものです。プログレといわれていたスティクスのこの頃ですが、さほどプログレ的な印象は受けません。ストレートでポップなロックの雰囲気です。

 それは一つにはデヤングとジェイムズ・ヤングの明るいボーカルのせいです。クルリュウスキのアクセントがなければ、より普通に1970年代前半の生きのいいロック・アルバムという範疇に収まっていたことでしょう。この頃のぴちぴちしたロックが溢れる佳作だと思います。

Styx II / Styx (1973 Wooden Nickel)



Tracks:
01. You Need Love
02. Lady
03. A Day
04. You Better Ask
05. Little Fugue In G
06. Father O.S.A.
07. Earl Of Roseland ローズランドの伯爵
08. I'm Gonna Make You Feel It
(bonus)
09. Unfinished Song

Personnel:
Dennis DeYoung : vocal, keyboards
James "JY" Young : vocal, guitar
John Curulewski : vocal, guitar, synthesizer
Chuck Panozzo : bass
John Panozzo : drums, percussion