スティクスは三途の川を意味します。メンバーの誰もが反対しなかったからという理由でつけたそうですが、1980年代初頭にポップなサウンドで一世を風靡するスティクスの名前がそんなパンクないしはヘビメタの極北のようなものだったとは不覚にも気づきませんでした。

 スティクスはシカゴのローカル・バンドでした。チャックとジョンのパノッツォ兄弟を中心に結成された時には二人はまだ10代前半でした。その後、メンバーが徐々にそろい、名前も最終的にスティクスに落ち着いてレコード・デビューしたのが1972年のことです。

 デビュー時にはすでに10年近くのキャリアを誇っていたわけですが、その間の活動は結婚式や学校のお祭りを始め、地元のクラブなどで演奏していたといいますから、まさにローカル・バンドの典型です。その中からデビューを勝ち取ったというお話がまずいいです。

 レコード・デビューはシカゴのインディペンデント・レーベルであるウッドゥン・ニッケルのオーナーが彼らのコンサートを見たことから実現しました。スティクスはやがて同レーベルを代表するバンドとなり、彼らが移籍するとほどなくレーベルは閉じてしまいました。

 この頃のスティクスはアメリカン・プログレ・ハードと呼ばれるアメリカ発のプログレ・バンドでした。実際、レーベル側の期待もそこにあったようです。スティクスというバンド名はレーベル側の示唆を受けて決定しています。神話ですからプログレ的でもあるわけですね。

 本作品は全6曲中、オリジナルは2曲だけです。残りの4曲はカバー曲ですけれども、メンバーの誰も聴いたことがなかったというレーベル主導の選曲になっています。なかなか聴かせる曲ですけれども、プログレ全開というわけではなく、ガレージ・バンド的な曲ばかりです。

 最後の曲「アフター・ユー・リーヴ・ミー」は作曲がジョージ・クリントンとなっています。しばしば誤解されますが、あのPファンクのクリントンではありません。後に映画音楽で有名になる方のクリントンです。ちょっと黒っぽい感じの演奏ですけれども。

 やはりオリジナルの2曲が本作品の目玉です。特に最初の「ムーヴメント・フォー・ザ・コモン・マン」は13分を越える4部構成の大作です。最初と最後はジェイムズ・ヤングとデニス・デヤングによるロックなオリジナルですが、二部と三部がなかなか凝っています。

 二部はシカゴでの街頭インタビューをコラージュした作品、三部はアーロン・コープランドの「庶民のファンファーレ」を演奏したものです。後にEL&Pがカバーするあの作品です。大そう力のこもった大曲であることが分かりますね。若さにあふれています。

 一方、二曲目のオリジナルは「ベスト・シング」というキャッチーな曲でシングル・カットされて全米トップ100に入っています。華麗なコーラス・ワークと、デヤングのクラシカルなオルガンが冴え渡るコンパクトな曲は彼らの将来を予感させるものです。

 凝った大曲もあるので、一般にプログレ期と捉えられがちですが、そこは若いバンドのデビュー作です。むしろ地元で鍛えたガレージ・バンドの卒業制作的な感じがします。勢いにあふれた楽し気な演奏はなかなかに気持ちがよいです。アメリカの底力ですかね。

Styx / Styx (1972 Wooden Nickel)



Tracks:
01. Movement For The Common Man
a) Children Of The Land
b) Street Collage
c) Fanfare For The Common Man
d) Mother Nature's Matinee
02. Right Away
03. What Has Come Between Us
04. Best Thing
05. Quick Is The Beat Of My Heart
06. After You Leave Me

Personnel:
Dennis DeYoung : vocal, keyboards
James "JY" Young : vocal, guitar
John Curulewski : vocal, guitar
Chuck Panozzo : bass
John Panozzo : drums, percussion