発表時の邦題は「10年目のマザーズ=ロキシー・ライブ」でした。マザーズ・オブ・インヴェンションのデビュー10周年を記念するツアーを収録したライヴ盤です。ただ、ここにはフランク・ザッパ先生以外のオリジナル・メンバーはいないので、今一つ10周年感はしません。

 原題は「ロキシー&エルスウェア」となっている通り、本作品は1973年12月にハリウッドにあるロキシーで行われたライヴを中心に、5月のシカゴとペンシルバニアでのライヴからの音源を加えた形で構成されています。使われているのは合計8回のステージです。

 ロキシーでのライヴは映像が残されていて、2015年に「ロキシー・ザ・ムーヴィー」として発表されていますし、計6回のステージの音源を収録した完全盤が2018年に「ザ・ロキシー・パフォーマンス」として発表されています。オーバーダブ付きの本作と聴き比べができます。

 ここでのマザーズ、俗にいう74年マザーズは本当に力のあるバンドでした。中心はキーボードのジョージ・デューク、ベースのトム・ファウラー、ドラムのラルフ・ハンフリー、トロンボーンのブルース・ファウラー、パーカッションのルース・アンダーウッドと「興奮の一夜」組。

 そこにツイン・ドラムでチェスター・トンプソン、そして懐かしいナポレオン・マーフィー・ブロックにドン・プレストン、ジェフ・シモンズを加え、さらにファウラー三兄弟のもう一人、ウォルト・ファウラーが加わります。もちろん先生はギターとボーカルでバンドを牽引しています。

 アルバムはLPだと二枚組でした。各面の最初にザッパ先生が長めのMCをかまして、それに続いて演奏が始まるという構成です。ここのところの成り行きで、高度な演奏なのに、とても聴きやすいです。ばねのようなグルーヴも世俗的な魅力にあふれていて飽きさせません。

 私は異色作「ヴィレッジ・オブ・ザ・サン」が大好きです。異色という意味は、先生にしては、何ともしなやかなメロディー、ちょっとセンチメンタルな歌詞、クリア・トーンのギターが珍しいからということで、曲自体はヒットしてもおかしくないタイプの曲だと思います。

 YouTubeの書き込みに「フランクはこの曲を演奏するときは本当に幸せそうだった」と書かれているのを見つけました。自身の思い出を振り返る曲であることを思えば、ザッパ先生の意外な一面も知れることができます。ボーカルは先生ではありませんけれども。

 他にもEL&Pのパロディーらしい「エキドナズ・アーフ」、B級モンスター映画を歌った「チープネス」、初期のマザーズの曲などなど、すべてが聴きどころです。最後の「ビー・バップ・タンゴ」は観客をステージにあげたおふざけ曲ですが、演奏はこれも凄いです。

 マザーズは、これまでさまざまな構成で、いろいろな魅力を見せてくれましたけれども、この極めて演奏力の高いバンドは、ロックを聴く耳にとてもよくなじむバンドです。何よりも漫談ではなく、純粋に演奏そのものが楽しいという様子が伝わってきます。

 74年マザーズはこの当時はこの作品でしか聴けませんでしたが、後に「オン・ステージ」でヘルシンキのライヴが発表されてその素晴らしさが再認識されました。今はロキシー完全版でさらにオーバーダブなしの演奏も聴けます。それでも少ないですが何よりの幸せです。

Roxy & Elsewhere / Zappa/Mothers (1974 DiscReet) #019

*2012年10月3日の記事を書き直しました。



Tracks:
01. Penguin In Bondage
02. Pygmy Twylyte
03. Dummy Up
04. Village Of The Sun
05. Echidna's Arf (Of You)
06. Don't You Ever Wash That Thing?
07. Cheepnis
08. Son Of Orange County
09. More Trouble Every Day
10. Be-Bop Tango (Of The Old Jazzmen's Church)

Personnel:
Frank Zappa : guitar, vocal
George Duke : keyboards, synthesizer, vocal
Tom Fowler bass
Ruth Underwood : percussion
Jeff Simmons : rhythm guitar, vocal
Don Preston : synthesizer
Bruce Fowler : trombone, dancing(?)
Walt Fowler : trumpet
Napoleon Murphy Brock : tenor sax, flute, lead vocal
Ralph Humphrey : drums
Chester Thompson : drums