過去を振り返ることを潔しとしないデヴィッド・シルヴィアンは、これまで自らコンピレーション作品を作ろうと言い出したことはありませんでした。しかし、2010年の「スリープウォーカー」だけは例外です。この作品は初めてシルヴィアンが発案したコンピレーションです。

 シルヴィアンは発案しただけではなく、本作品の制作を完全にコントロールしています。その彼がここで選んだのは、シルヴィアンのキャリアの中で、ソロ作品と並行して進められてきたさまざまなアーティストとのコラボレーションによる曲たちです。

 タイトルの「スリープウォーカー」は同名の曲もありますけれども、アルバム収録曲が「多くの人が存在すら認識していないスリーパーだ」という認識をもとにつけられたタイトルです。まさに正しいコンピレーションのあり方です。こうしてまとめると光が当たります。

 アルバムはタイトル曲で始まります。この曲はシルヴィアンが2007年に行った「ワールド・イズ・エヴリシング・ツアー」のツアー・プログラムに添付されていた2曲入りCDの一曲で、「マナフォン」オーストリア組と関係の深いマーティン・ブランドルマイヤーの曲です。

 「マナフォン」の最初のセッションの後でブランドルマイヤーが送って来たテープがもとになっています。この曲にはサチコM、中村俊丸の日本組も演奏で参加しています。ツアーにも同行した渡邊琢磨が書いた、もう一曲の「ワールド・イズ・エヴリシング」も収録されています。

 そして、実弟スティーヴ・ジャンセンとバーント・フリードマンとのトリオ、ナイン・ホーセズの曲が3曲、ジャンセンのソロ・デビュー・アルバムに提供した曲が2曲、坂本龍一とのコラボレーション「ワールド・シチズン」。ここらあたりは手に入りやすいコラボ曲といえます。

 ここからが貴重です。シルヴィアンのサマディサウンドのレコーディング・アーティスト、ヤン・バングとエリック・オノレのユニット、プンクトのアルバムへの提供曲が「エンジェル」、同じデュオがプロデュースしたアーヴ・ヘンリクセンのアルバムへの提供曲「サーマル」。

 日本の高木正勝の作品に提供した「エグジット/デリート」、米国のオルタナ・バンド、トゥイーカーとの「ピュア・ジーニャス」、クリスチアン・フェネスとの「トランジット」、レディメイドことジャン・フィリップ・ヴェルダンとの「シュガーフュエル」。まとまらなければ追うのは大変です。

 そして新曲が一曲だけ含まれています。日本の現代音楽畑の作曲家、藤倉大とのコラボレーションとなる「ファイヴ・ラインズ」です。藤倉はシルヴィアンに影響を受けたと広言しており、二人のコラボはこのまま「マナフォン」のリミックス作品につながっていきます。 

 唯一のソロ作品は「ブレミッシュ」からのインストゥルメンタル・アウトテイク「トラウマ」のみです。ギリギリと身を削った「マナフォン」、「ブレミッシュ」制作中に行われたコラボが中心で、シルヴィアンにとってこうした活動は息抜きでもあったのでしょう。それにしても贅沢ですが。

 問いを立てる必要がなく、与えられた問題を解いていくという少しリラックスした状況でのシルヴィアンのボーカル・インプロヴィゼーションも素晴らしいです。圧倒的に素晴らしいアートワークとあいまって、このコンピ盤もまた恐るべきアルバムだと言えます。

Sleepwalkers / David Sylvian (2010 Samadhisaund)



Tracks:
01. Sleepwalkers
02. Money For All
03. Ballad Of A Deadman
04. Angels
05. World Citizen - I Won't Be Disappointed
06. Five Lines
07. The Day The Earth Stole Heaven
08. Playground Martyrs
09. Exit / Delete
10. Pure Genius
11. Wonderful World
12. Transit
13. The World Is Everything
14. Thermal
15. Sugarfuel
16. Trauma

Personnel:
David Sylvian : vocal, keyboards, guitar, harmonica, piano, electronics
***
Martin Brandlmayr : drums, vibraphone, marimba, computer
中村としまる : no-input mixing board
サチコM : sampler with sine waves
Burnt Friedman : drums, programming, synthesizers, vocoder
Hayden Chisholm : clarinet
Morten Grønvad : vibraphone
Daniel Schröter : double bass
Atom : drum programming
Tommy Blaize : chorus
Derek Green : chorus
Beverlei Brown : chorus
Andrea Grant : chorus
Joan Wasser : vocal, violin
Theo Travis : flute
Steve Janasen : drums, percussion, synthesizers, sampling, keyboards, piano
Jan Bang : live sampling, samples
Erik Honoré : synthesizers
Arve Henriksen : trumpet
Audun Kleive : percussion
Ingebrigt Håker Flaten : double bass
坂本龍一 : keyboards, sound programming
Sketch Show : sound programming
Amadeo Pace : guitar
小山田圭吾 : turntable
Jennifer Curtis : violin
Michi Wiancko : violin
Wnedy Richman : viola
Katinka Kleijn : cello
Keith Lowe : bass
Tim Motzer : guitar
Joseph Suchy : guitar
Thomas Hass : sax
高木正勝 : all instrumentation for "Exit/Delete"
Chris Vrenna : all instrumentation for "Pure Genius"
Stina Nordenstam : vocal
Christian Fennesz : all instrumentation for "Transit"
渡邊琢磨 : keyboards
Eivind Aarset : guitar
Jean-Philippe Verdin : all instrumentation for "Sugarfuel"