ジャーニーがついに羽化しました。本作品「エスケイプ」は全米チャートの1位を獲得し、全世界で1000万枚以上を売り上げる特大ヒットになりました。いよいよスーパースターとして各地のスタジアムを沸かせる存在に上り詰めたジャーニーです。

 不思議なサントラ「夢、夢のあと」を発表した後、ジャーニーからはオリジナル・メンバーのグレッグ・ローリーが脱退してしまいました。ツアーばかりの生活に疲れたという理由ですから、喧嘩別れではありません。いわば円満な退社で、後任の推薦までしたそうです。

 後任に選ばれたのはジャーニーのツアー・サポートをしていたイギリスのバンド、ベイビーズのアメリカ人、ジョナサン・ケインでした。サンタナ出身のローリーに比べると、スティーヴ・ペリー加入後のジャーニーのポップ路線にはぴったりのキーボード奏者です。

 ケインは「エスケイプ」の全曲に作曲者としてクレジットされています。キーボード奏者としての貢献にとどまらない大活躍ぶりです。大ヒットした「クライング・ナウ」の印象的なピアノはもちろんケインによるものです。ケインを得て、ジャーニー・サウンドは確立しました。

 この作品からは「クライング・ナウ」、「ドント・ストップ・ビリーヴィン」、「オープン・アームズ」と三曲ものシングル・ヒットが誕生しています。いずれもばりばりのロックというよりも、ペリーのハイトーン・ボーカルが映えるバラード曲です。まさにヒットチャートの申し子になりました。

 本作品が発表されたのは1981年7月ですが、同じ年の4月に日本では「ベスト・ヒットUSA」の放送が始まっています。全国ネットでは初めての本格的な洋楽番組でした。ちなみにMTVは同年8月開局ですから、「ベスト・ヒットUSA」の方がちょっと早いです。

 まだプロモ・クリップも少なかった当時、その「ベスト・ヒットUSA」でジャーニーの「クライング・ナウ」がオンエアされたことを覚えています。そのため、私にはジャーニーといえば「ベスト・ヒットUSA」のイメージが強いです。小林克也氏の顔が浮かんできます。

 もはやそれが高じて、1980年代前半の幸せだった日本を象徴するバンドの一つがジャーニーであるとまで思ってしまっています。この作品でのジャーニーはどこまでも明るくてキャッチーです。前三作の路線がより強化されてとにかく気分があがります。

 ここでのジャーニーは各シングル曲に代表されるパワー・バラードが中心なのですが、ハードにロックしていなくても、気分を浮き立たせるエネルギーがあります。一番ヒットした「オープン・アームズ」などがいい例です。AOR的ではありますが、もっとあげあげです。

 ニール・ショーンのギターは主役を張るというよりも、楽曲の中に組み込まれていて、その中で光る風情になってきました。印象的なギター・ソロはよりコンパクトに織り込まれて光彩を放っています。「クライング・ナウ」のギターなんて最高です。

 面白いことに4枚目のシングル「スティル・ゼイ・ライド」のB面曲「ラ・ラザ・デル・ソル」はペリーとケインの共作ですが、ラテン風味でサンタナ感が満載です。ボートラ収録ですけれども、そんな余裕も感じさせる堂々たるアルバムなのでした。1980年代の幕開けにふさわしい。

Escape / Journey (1981 Columbia)

*2014年3月11日の記事を書き直しました。



Tracks:
01. Don't Stop Believin'
02. Stone In Love
03. Who's Crying Now
04. Keep On Runnin'
05. Still They Ride 時の流れに
06. Escape
07. Lay It Down
08. Dead Or Alive
09. Mother, Father
10. Open Arms
(bonus)
11. La Raza Del Sol
12. Don't Stop Believin' (live version)
13. Who's Crying Now (live version)
14. Open Arms (live version)

Personnel:
Steve Smith : drums, percussion
Steve Perry : vocal
Neal Schon : guitar, vocal
Jonathan Cain : keyboards, vocal
Ross Valory : bass, vocal