ようやくラ・モンテ・ヤングの正規発売CDを入手することができました。本作品はラ・モンテ・ヤングの有名な作品、通称「ザ・ブラック・レコード」です。1969年に発売されたアルバムで、ごらんの通り、ジャケットが真っ黒なのでこう呼ばれています。

 ジャケット上にはアルバム・タイトルの表記はありません。ラ・モンテ・ヤングとパートナーであるマリアン・ザジーラの名前が書かれているのみです。収録されている曲は2曲で、それぞれLPのA面とB面全部を占めていました。この曲名がタイトルとされることもあります。

 ヤングはアメリカの現代音楽の作曲家で、ミニマル音楽四天王などと呼ばれていますけれども、ミニマルなフレーズを繰り返すというよりも、飽くなきドローンの探求者ですから、スティーヴ・ライヒやフィリップ・グラスの音楽を思い浮かべると面食らいます。

 この作品はそのものずばりのドローンで埋め尽くされています。今やドローン音楽は一般的になっていますが、ヤングの徹底したドローンぶりはそれらとは一線を画しています。ずーっとドローン。持続音が延々と続きます。とても分かりやすい姿勢です。

 1曲目は「1969年7月31日午後10時26分から10時49分」です。録音日時を正確に表した曲名です。ミュンヘンのハイナー・フリードリッヒ・ギャラリーでライヴ録音されており、背景にうっすらと車が通る音が紛れ込んでいます。臨場感抜群です。

 この曲は、「49の地図が銀河間隔の装飾的な光年網目模様の11のセットからなる二つのシステムを夢見る」という長い曲の一部なんだそうです。そして、その曲はさらに長大な「亀、その夢と旅」の一部であるということです。概念的連続性が保たれています。

 ここでは電気的に作り出された正弦波によるつるつるのドローンを背景に、ヤングとザジーラの二人が声によるパフォーマンスを行います。といっても、二人の声も持続音、すなわちドローンです。極めて起伏の乏しいサウンドが延々と続いていきます。

 耳を傾けていると、むしろこちらが揺れてきます。同じ音が続いているだけであっても、そこにさまざまなニュアンスが発生してくるので、飽きることがありません。時おり聴こえる車の音が、聴き方をガイドしてくれます。環境との相互作用が明確になるんです。

 二曲目は「1964年8月23日午前2時50分45秒から3時11分ヴォルガ・デルタ」です。この曲も「バウド・ディスクの研究」という曲の一部だそうで、ニューヨークのスタジオで録音されました。ここで二人が演奏しているのは直径4フィートのゴングです。

 このゴングは二人のために彫刻家ロバート・モリスが制作したのだそうです。ここでは二人は延々とゴングを弓でこすり続けている模様です。この曲などは英国ニューウェイヴのインダストリアル系のバンドのサウンドを想起させます。これまた溺れそうなサウンドです。

 盟友ジョン・ケイルが一生懸命に発売してくれるレコード会社を探し、ようやくドイツのエディションXから陽の目を見たアルバムです。一見シンプルなサウンドですが、無限の宇宙を内包したかのような豊かな音です。正式に復刻して嬉しい限りです。

The Black Record / La Monte Young & Marian Zazeela (1969 Edition X)



Tracks:
01. 31 VII 69 10:26 - 10:49 PM
02. 23 VIII 64 2:50:45 - 3:11 AM The Volga Delta

Personnel:
La Monte Young : electronics, gong, voice
Marian Zazeela : gong, voice