イタリアのリザード・レコードから発表されたエアポートマンのアルバム「イル・ラッコルト」です。リザードは1996年にスピロスフェラの「ウマナムネシ」を発表して産声を上げました。その後も精力的にアルバムをリリースし続けているレーベルです。

 あたかもスピロスフェラのファンであるかのように書いておりますが、リザードから発表されているアルバムのリストを眺めてみても、一つとして存じ上げているアーティストに出会うことはできませんでした。世界はまだまだ広い、とこの歳にして思い知らされました。

 なぜこのアルバムを購入したかといえば、ディスク・ユニオン店頭でのジャケ買いです。CDよりも一回り大きな紙製のジャケットが厚めの蠟紙に包まれた仕上がりとなっており、私の購買意欲をそそってあまりあるものがありました。サブスク全盛時代に天晴です。

 ただし、半透明の蝋紙から出してみると紙質といい、印刷の質といいお世辞にも素晴らしいとはいいがたいものでした。蝋紙に予算を食われすぎたのでしょうか、それともジャケットの作りのしょぼさを蝋紙で補ったのでしょうか。やはり紙ジャケ制作は日本が最高です。

 閑話休題。この作品はディスク・ユニオンの情報によれば「03年に結成されたイタリア産アンビエント/エクスペリメンタル・ミュージックユニットの22年作」とされています。「現行ポスト・ロックの幻想性を彼ららしい美的感覚によって消化した秀作」とも表記されます。

 そのサウンドは「淡く漂動するアンビエント・サウンドを基調に、アコースティック楽器やフィールド・レコーディング/サウンド・コラージュなどスタジオワークならではの趣向を凝らした緻密な音像を提供」と評されています。一つ付け加えるなら、不気味系、です。

 エアポートマンは、ギタリストのジョバンニ・リッソとマルチ楽器奏者マルコ・ランベルティの二人組です。「イル・ラッコルト」、直訳すると「収穫」と題された本作品には、ドラムのフランチェスコ・アロア、ベースにカルロ・バルバガッロが迎えられています。

 さらにボーカルに長年のコラボレーターだというステファノ・ジャッコーネが参加しています。本作品ではアート・ベアーズの「パイレート・ソング」のカバーが大きな役割を果たしており、ジャッコーネがダグマー・クラウゼにあたるといえばその重要性が分かるというものです。

 本作品は「過去/現在/未来のそれぞれに目を向けた時間の流れを反映した作品」だと説明されており、ある種のコンセプト・アルバムであることが分かります。特に長尺のタイトル曲はこうしたコンセプトを乗せる器として十分に機能する楽曲になっています。

 ただし、アンビエント/エクスペリメンタルと呼ぶことには多少留保が必要です。アート・ベアーズのカバーが象徴するように、本作品はカンタベリー系にも通じるイタリアの伝統あるプログレッシブ・ロックの世界の現在形だと観念した方がすっきりします。

 思わぬ掘り出し物でした。イタリアらしい深みのあるプログレッシヴ・ロックは脈々とイタリアの音楽界を流れていたのです。ポスト・ロックと呼ばれる時代にあってもそのサウンドは死なず。同時代的な衣装をまとった幻想的な作品です。さすがはイタリア。

Il Raccolto / Airportman (2022 Lizard)



Tracks:
01. Il Raccolto / The Pirate Song
02. Nei Kiwi C'è Il Mare
03. La Yurta Montata
04. Tony E La Meraviglia / The Pirate Song

Personnel:
Risso Giovanni : guitar
Lamberti Marco : guitar, keyboards etc.
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Francesco Alloa : drums
Carlo Barbagallo : bass
Stefano Giaccone : voice