「夢、夢のあと」はジャーニーの作品の中でも特異な位置を占めるアルバムです。この作品はファッション・デザイナーの高田賢三が監督した同名映画のサウンドトラック・アルバムとして制作されました。サントラも含めて日本側の企画です。

 映画は何でもモロッコを舞台にしたファンタージー・ラヴ・ロマンスで、映画.comによれば、「砂漠にある湖のほとりの城を舞台に、そこに住む美しい姉妹と、迷い込んだ若者との幻想的な愛を描く」作品です。キャストはフランス人が中心ですね。

 モロッコが舞台だということで、高田賢三からはサンタナに映画音楽を依頼できないかとCBSソニーに打診があったそうです。担当ディレクターの森下氏は、前年のジャーニーの初来日公演の雪辱を果たすべく、「このチャンスをジャーニーに」と画策します。

 「キャラバンサライ」はサンタナではなくニール・ショーンが中心だと強弁し、「そのニール・ショーン率いるジャーニーでやりましょう」と賢三サイドを説得したそうで、賢三氏もこれを受けて、ジャーニーが全曲オリジナルのサウンドトラックを担当することが決まりました。

 音楽制作は日本で行われましたけれども、面白いことに「音楽制作を時間通りに間に合わせるため、制作費用を低く抑えるためにコンサートを行う」という本末転倒が発生し、めでたくジャーニーの二回目の来日公演が実現してしまうという余禄が発生しました

 東京2回、大阪2回の公演は、「お気に召すまま」のヒットなどもあったことから、初来日とは異なり、大いに盛り上がったようで大変よかったです。ジャーニーも気持ちよく本作品の制作に臨むことができたことでしょう。何はともあれ、ジャーニーの日本での地位が確立しました。

 本作品のレコーディング期間はわずか一週間だったそうです。異例の短期間で見事にアルバムを一枚仕上げたわけですから大したものです。収録時間は短いですけれども、いかにもサウンドトラック然としたアルバムはジャーニーにとっても挑戦だったことでしょう。

 作品はスティーヴ・ペリー加入後のアルバム群とはかなり性格を異にしています。ペリーのボーカルは全9曲中3曲で聴かれるのみで、それもいつものハイトーンよりは少し抑えめの歌唱となっています。映画を邪魔しないように控えている模様です。

 むしろペリー加入以前のプログレッシブ・ロックと呼ばれた頃のジャーニーのサウンドの延長線上にあるといえます。ストリングスやホーンを交えたサウンドは、典型的なロック・サウンドというよりも、映像に随伴するサウンドトラック然としています。

 ショーンの泣きのギターとともに、ベースのロス・ヴァロリィによるピアノ、さらにはグレッグ・ローリーのキーボード、ゲストとして参加しているスクエアの伊東たけしのサックスなど、個々のプレイを生かしたサウンド風景が広がります。サンタナの片鱗も見えてきます。

 本作品は、ジャーニーのカタログの中では、唯一サブスクにも入っていないなど、見過ごされているアルバムではありますけれども、初期のジャーニーのファンにとってはなくてはならない作品ではないでしょうか。私にとっても長らく気になっていたアルバムでした。

Dream, After Dream / Journey (1980 Columbia)



Tracks:
01. Destiny
02. Snow Theme 雪のテーマ
03. Sandcastles 砂の城
04. A Few Coins 呪われたコイン
05. Moon Theme 月のテーマ
06. When The Love Has Gone 哀愁のロマンス
07. Festival Dance
08. The Rape
09. Little Girl

Personnel:
Steve Perry : vocal
Neal Schon : guitar, vocal
Gregg Rolie : keyboards, harmonica
Ross Valory : bass, piano, recorder
Steve Smith : drums, percussion
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伊藤たけし : alto sax
Takashi Fukumori, Katsuhiko Ijiri, Takashi Kato, Youichiro Kobayashi, Takao Ochiai, Hachiro Ohmatsu, Kiyoshi Ohsawa, Masatsugu Shinozaki : violin
Toshiki Fujisawa, Hiroto Kawamura, Tsunehiko Niwa, Kazuo Okamoto : cello
Shunichi Hirayama, Katsuhiro Shinoda, Tatsuya Takizawa, Hiroshi Watanabe : viola
Toshio Araki, Susumu Kazuhara, Yoshikazu Kishi, Kunitoshi Shinohara, Kenji Yoshida, Takatoki Yoshioka : trumpet
Eiji Arai, Hirotaka Fukui, Yasushi Harada, Yasuo Hirauchi, Tadataka Nakazawa, Sumio Okada : trombone
Yasuyo Ito, Yasuhiro Okita, Masayuki Yamashiro : horn
Keiko Yamakawa : harp