ダニー・ボイル監督の「イエスタデイ」はビートルズに関する情報が一切消えてしまった世界を描いたイギリス映画です。この映画の中で、ビートルズとともに消えてしまっていたのがオアシスでした。イギリスの人にとって、オアシスはそういう認識のバンドなんですね。

 オアシスのセカンド・アルバム「モーニング・グローリー」は記録的なヒット作となりました。全英チャートでは10週連続1位を獲得し、後に抜き返されることになりますが、一時はビートルズの「サージェント・ペーズ」の売上記録を塗り替える偉業を達成しています。

 全世界では2200万枚を越えるモンスター・アルバムとなり、ここ日本でも大いに売れました。英国の新人に厳しい全米チャートでも4位と大健闘しています。しかし、何といってもイギリスです。おそらくイギリス人の半分以上はこのアルバムの曲をほとんど歌えるでしょう。

 実際、ロンドン・オリンピックの閉会式でリアム・ギャラガーが「ワンダーウォール」を歌った際には観客席から大合唱が聴こえてきました。この曲は本作品からのサード・シングルで1位にこそなりませんでしたが、英国では完全にスタンダードと化しています。

 デビュー作がかなりワイルドでラフな作りだったのに対し、本作品はずいぶんと洗練された音づくりになりました。前作で魔法を使ったオーウェン・モリスがプロデューサーとして本領を発揮しました。キーボードを加えて、サウンドは多彩になりました。

 前作は勢いで全編押し通していましたが、今回は静かめの曲も加わりましたし、リード・ボーカルを一部兄貴のノエル・ギャラガーがとっています。また、バンドの弱点といわれていたドラムはポール・ウェラーの紹介であのアラン・ホワイトと同名の男に交代、華やかになりました。

 シングルは「サム・マイト・セイ」、「ロール・ウィズ・イット」、「ワンダーウォール」、「ドント・ルック・バック・イン・アンガー」と次々にカットされ、最初と最後が1位を獲得、その他の2曲も2位、どれも名曲として親しまれています。私も全曲一緒に歌えます。

 オアシスの特徴であるビートルズゆずりのメロディー・センスはこのアルバムで最高潮に達します。ノエルの作り出すメロディーは、これまでの英国ロックの歴史を踏まえた作りとなっており、本当に素晴らしいです。その点ではブリティッシュ・ロックの一つの集大成です。

 また、この頃、オアシスは何かと英国の音楽メディアの話題でした。まずは同時期に頭角を現したブラーとのライバル物語。オアシスはマンチェスターの労働者階級、ブラーはロンドンの中産階級と実に分かりやすい対決です。同じ日にシングルを発売するなど煽る煽る。

 もう一つはノエルとリアムの兄弟げんかです。ノエルがリード・ボーカルをとったことが気に入らないリアムとの間で大げんかが生じます。メディアにとってはおいしい見世物です。ブラーとのライバル物語はやがて立ち消えとなりますが、兄弟げんかは永遠です。

 もちろんオアシスの代表作ですし、1990年代を代表する非の打ちどころのないアルバムではありますが、デビュー作のワイルドな魅力も捨てがたいので、これが最高傑作という言い方は躊躇してしまいます。どちらも素晴らしいとだけ言っておきましょう。

(What's The Story) Morning Glory? / Oasis (1995 Creation)

*2012年8月15日の記事を書き直しました。



Tracks:
01. Hello
02. Roll With It
03. Wonderwall
04. Don't Look Back In Anger
05. Hey Now!
06.
07. Some Might Say
08. Cast No Shadow
09. She's Electric
10. Morning Glory
11.
12. Champagne Supernova

Personnel:
Liam Gallagher : vocal
Noel Gallagher : guitar, vocal, mellotron, piano, e-bow
Paul Arthurs : guitar, mellotron, piano
Paul McGuigan : bass
Alan White : drums, percussion
***
Paul Weller : guitar, chorus