「じゃがたら」はインドネシアのジャカルタの古称、「じゃがいも」はじゃがたらからきた芋だと言われています。また、江戸時代にジャカルタに追放され、かの地から日本に名文の手紙を書いたとされる、じゃがたらお春にその名が残されています。

 暗黒大陸じゃがたらは、江戸&じゃがたら、じゃガタラお春、財団呆人じゃがたらお春、財団呆人じゃがたら、財団法人じゃがたらと転々と名前を変えた末のバンド名です。デビュー・アルバムとなる「南蛮渡来」はその暗黒大陸じゃがたらによる作品です。

 私とじゃがたらの出会いは、財団法人時代の「ラスト・タンゴ・イン・ジュク」でした。浮世絵の春画のもろ場面を使ったジャケットのシングル盤です。ミディアム・テンポに響くどすのきいたボーカルといい、マーロン・ブランドの映画をもじったタイトルといい、とにかく渋かった。

 エログロ満載の過激パフォーマンスで話題となっていたじゃがたらです。パンクやニュー・ウェイブの文脈よりも、新宿花園神社系のアングラ世代の後継者のような感じがしていたものです。リーダーの江戸アケミもおっさんそのものでしたし。

 じゃがたらの音楽は、私には学生時代に徘徊していた歌舞伎町から西新宿、大久保あたりの生ゴミのような街の感覚そのまんまです。精液と煙草の匂いで汚れたうすら寒いコンクリートの街並みの白っ茶けた朝焼けの感じ。ちょっと怖い大人の街。彼らは新宿そのものです。

 じゃがたらは音楽シーンの渦中にあるというより、新宿という地域に属して超然としていました。サウンドも、特にメンバーにギターのOTOが加入してからはアフロビート、ファンク、レゲエ、ダブ系の要素を取り入れ、凄みのある超然としたストリート・ファンクを繰り広げました。

 じゃがたらの佇まいは頭一つ抜けて落ち着いていました。それに何より、カリスマである江戸アケミの言葉というか歌の凄さが、彼らを他のバンドと一緒くたに語ることを阻んだ感じです。この作品はそんな暗黒大陸じゃがたらの遅すぎるデビュー・アルバムです。

 このアルバムは、評論家に大絶賛されました。OTOはすでに加入していて、ファンクというかアフロっぽいです。例のシングル盤の曲は、まさにタンゴなんですが、このアルバムに再録された時には曲名も「タンゴ」と短縮され、ファンクに生まれ変わりました。

 紙ジャケ再発盤のライナーでOTOはこの頃のじゃがたらの音楽を「レゲエとパンクが混じったような感じ」、「ポップ・グループとかイアン・デューリーみたいな感じ」、さらに「ギャング・オブ・フォーとかその、ファンクの成分だね」などと語っています。

 こう聞くと確かに当時のニュー・ウェイブ・サウンドの文脈に素直に収まる音楽なのですけれども、そうしたサウンドの全てを引き受けてバンドを締める江戸アケミのボーカルが凄すぎて、やはり孤高のバンドとして見てしまいます。当時の日本の最高のバンドの一つでした。

 なお、本作品は何度も再発されており、ジャケットも何種類か存在するので要注意です。さらに途中からボーナス・トラックが2曲収録されて全10曲となっています。あの頃のバンドの中でここまで丁寧に繰返し再発されるのはじゃがたらくらいです。

Nanbantoai / Ankoku Tairiku Jagatara (1982 Doctor)

*2011年8月2日の記事を書き直しました。



Tracks:
01. でも・デモ・DEMO
02. 季節のおわり
03. Baby
04. タンゴ
05. アジテーション
06. ヴァギナ・FUCK
07. Fade Out
08. クニナマシェ
(bonus)
09. 元祖家族百景
10. ウォークマンのテーマ

Personnel:
アケミ : vocal, guitar
サミー : drums
ナベ : bass, vocal
エビ : guitar, vocal
OTO : guitar, vocal
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よしだ、小野研二 : trumpet
スマイリー : baritone sax
弁蔵 : alto sax
ジョージ河辺、カイ : drums
フクオカ : percussion
はじめバンド、P・C・E&C、じゃがたらガールズ、山本政志&斜眼帯、近所のガキ: chorus
佐田川彩 : voice
野村良二、Jungles : special guest