サム・クックのRCA4作目「マイ・カインド・オブ・ブルース」は、タイトルからも明らかなようにブルースをテーマにしています。RCAのプロダクション・チーム、ヒューゴ&ルイージもようやくブラック・ミュージックに正面から取り組むことしたのでしょう。

 しかし、一筋縄ではいきません。ブルース・アルバムを作ることを決めたヒューゴ&ルイージはブルースのクラシックを集めてきて、ある晩、クックに聴かせます。しかし、せっかくのブルースなのにクックの表情は冴えません。どうしたのかと尋ねると...。

 クックの答えは「いい曲だけど、マイ・カインド・オブ・ブルースじゃない」でした。まだまだ若いクックは新しい世代のミュージシャンでしたし、新しい音楽の中で自身のスタイルを築き上げてきた人です。オールド・スタイルをそのままカバーするのはちょっと違う。

 そこで、クックが自身のブルースを感じる曲を選んでアルバムに仕上げたのが本作品というわけです。選ばれた曲の中にはブルースの名曲も含まれてはいますけれども、多くは狭い意味でのブルースにはあてはまりません。クックのブルースは形ではないのです。

 解説にはBMIよりもむしろASCAPの曲が多いという表現が使われています。両者は米国の二大演奏権団体ですが、この頃のASCAPは黒人音楽を避けていたといわれており、BMIに典型的なブルースが多かったのだという事情からの表現です。

 実際、選曲された曲ではASCAP10曲に対しBMIは2曲にすぎません。クックに縁の深いJWアレクサンダーの「ユー・オールウェイズ・オン・マイ・マインド」と、R&Bシンガーのアイヴォリー・ジョー・ハンターの「シス・アイ・メット・ユー・ベイビー」がその2曲です。

 この2曲も比較的新しく、しかも典型的なブルースというわけではありません。ASCAPの方はデューク・エリントンにジョージ・ガーシュウィン、アーヴィン・バーリンなどの曲が並んでおり、こちらもジャズやポピュラーに分類される曲が大半です。

 はっきりブルースのスタンダードと言えるのは、ジミー・コックスの1923年作品「落ちぶれはてて」や、1919年の「ベイビー・ウォント・ユー・プリーズ・カム・ホーム」くらいなものです。しかもそれらもブルースと聞いて思い浮かべるこてこての曲ではありません。

 要するにクックのカインド・オブ・ブルースは音楽のスタイルなどではないということなのでしょう。魂の問題と言い切ってしまいましょう。ブルースを感じる曲がブルースなのであって、形式や音階の名前などではないのだ、そんなところです。潔いですね。

 そんなわけで、これまでのRCA作品とがらりと音楽が変ったわけではありません。ただし、そこはやはりブルース、どんどんクックが本領を発揮してきた様子がうかがえます。クルーナー歌手に分類されることも多いクックが黒っぽくなってきました。

 いつものことですが、それがまた上手い。本当にこの人は歌がうまい。ブルースもやはり上手い。間抜けな感想しか浮かばないのが悲しいです。これまでよりもねっとりとした演奏をしたがえて、天才サム・クックが歌いまくるご機嫌な作品です。

My Kind Of Blues / Sam Cooke (1961 RCA)



Tracks:
01. Don't Get Around Much Anymore
02. Little Girl Blue
03. Nobody Knows When You're Down And Out 落ちぶれはてて
04. Out In The Cold Again
05. But Not For Me
06. Exactly Like You
07. I'm Just A Lucky So And So
08. Since I Met You Baby
09. Baby, Won't You Please Come Home
10. Trouble In Mind
11. You're Always On My Mind
12. The Song Is Ended

Personnel:
Sam Cooke : vocal
***
Clifton White, Everett Barksdale : guitar
George Duvivier, Lloyd Trotman : bass
Panama Francis : drums
Morris Wechsler, Ernest Hayes : piano
Nunzio "Toots" Mondello, Reuben Phillips, Seldon Powell, Melvin Tax, Jerome Richardson : sax
Ray Copeland, Steve Lipkins, Lou Oles, Joseph Wilder, John Grimes : trumpet
Larry Altpeter, Albert Godlis, Frank Saracco, Eddie Bert : trombone