サム・クックによるRCA第三作目はセルフ・タイトルとなっていますが、「スウィング・ロウ」とも呼ばれています。本作品が発表された1961年はまだまだアルバムの位置づけが曖昧で、編集盤が無秩序に作られていましたから、セルフ・タイトルでは分かりにくいのでしょう。

 これまでの二作品は明確にコンセプトがある作品でした。本作品もその流れを受け継いでいます。今回のテーマは「アメリカ音楽の父」スティーヴン・フォスターの時代、19世紀にさかのぼって探したアメリカの偉大な歌、グレイト・アメリカン・ソングです。

 プロデューサーのヒューゴ&ルイージは、19世紀の黒人霊歌「スウィング・ロウ」をクックに聴かせ、クックならどんな風に料理するか尋ねました。クックの答えは「テンポをあげて、ブラスを乗せるかな」というものでした。これが本作品のコンセプトです。

 本作品には、「スウィング・ロウ」に加えて、日本でもおなじみの「大きな古時計」、フォスターの名曲「金髪のジェニー」、そして「ロング・ロング・アゴ」の4曲の19世紀の曲が収録されました。「グレイト・アメリカン・ソングブック」の先がけだといえます。

 ただし、テーマとして掲げたにしては全12曲中4曲ですからまるで徹底していません。残りの8曲のうち3曲は前作同様に1950年代の楽曲、1曲は1930年代、もう一曲はドボルザークの「家路」となっています。「家路」は19世紀といえば19世紀ですが。

 それよりも本作品の目玉になっているのは、RCAからのアルバムに初めて収録された3曲のオリジナル曲です。中でも、これまた初めてアルバムに収録されたシングル・ヒット曲である「チェイン・ギャング」でしょう。いずれもクックのオリジナルです。

 この曲は1960年7月に発売されるや、全米チャートの2位まで上がる大ヒットになりました。クックにとっては名曲「ユー・センド・ミー」に次ぐ快挙です。同年1月に録音されたシングル盤用のバージョンがA面最後にそのまま収録されました。

 そのため、アルバムの中で明らかにサウンドが異なります。他の曲は、先のクックの答えをもとにアレンジャーのサミー・ロウが、出産する奥さんの元に戻ったクックを追いかけてまで、アレンジを施し、パパになったクックがニューヨークに戻ってから録音されたものです。

 選曲は前述のように19世紀ばかりではありませんけれども、そんな調子なのでアレンジは統一されています。前作、前々作に比べると、グレイト・アメリカン・ソングであっても、かなりリズミカルになっており、ようやくソウル、R&Bシンガーらしいクックになったといえます。

 そこに少しパンクなテイストの「チェイン・ギャング」が投下されているので、そこまで違和感はありません。むしろ、「チェイン・ギャング」のテイストがアルバムをひっぱったような気がします。なお、実は同曲のみ前作のグレン・オッサーがアレンジしているのもまた面白いです。

 ようやくサム・クックと聞いて普通に思い浮かべる作品になってきました。どんな歌でも歌いこなすクックなだけにどんな企画でもうならせてくれますけれども、本作品のように少しクックの素に近づいてくるとやはり素直に嬉しく思います。ジャケットも素敵です。

Sam Cooke (Swing Low) / Sam Cooke (1961 RCA)



Tracks:
01. Swing Low, Sweet Chariot
02. I'm Just A Country Boy 僕はカントリー・ボーイ
03. They Call The Wind Maria
04. Twilight On The Trail
05. If I Had You
06. Chain Gang
07. Grandfather's Clock 大きな古時計
08. Jeanie With The Light Brown Hair 金髪のジェニー
09. Long, Long Ago
10. Pray
11. You Belong To Me
12. Goin' Home

Personnel:
Sam Cooke : vocal
***
Clifton White, Don Arnone, Everett Barksdale, Al Chernet : guitar
Milt Hinton : bass
Jimmie Crawford, Bunny Shawker : drums
Hank Jones : piano
Seldon Powell : sax
Steve Lipkins Leon Marian, Ernest Royal : trumpet
Henderson Chambers, Albert Godlis, Frank Saracco : trombone
Hinda Barnet, Fred Fradkin, Archie Levin, Harry Lookofsky, Ben Miller, David Nadien, Sylvan Shulman : violin
George Ricci : cello
Al Brown : viola