アルバムを発表するたびに話題をふりまくU2です。「ソングス・オブ・サレンダー」と題された本作品は「ベスト・ソング17曲を新たな解釈で新録音したニュー・アルバム」です。ただし、手元にあるのはスタンダード・エディションの日本盤なので17曲入りにすぎません。

 デラックスは20曲入り、スーパー・デラックスが40曲入り、既発曲ばかりだからできる話です。配信は当たり前のように40曲バージョンになっていますが、やはり3時間は長い。スタンダードくらいの長さがちょうどよいです。物理メディアの制約も時にはありがたいものです。

 アコースティック中心と聞いていたので、アンプラグドの豪華版なのかなと思っていたのですが、本作品はそこにとどまるものではありませんでした。ジ・エッジは「初期のU2の楽曲の多くが新たな解釈によって生まれ変わる、ということに僕らは夢中になっていた」と語ります。

 「バンドがここまで変化し、成長してしまった」状況で、初期の頃に書いた曲の「本質に再び触れるにはどうすればいいだろうか」と問いかけて、「新たなキー、新たなコード、新たなテンポが試され、新たな歌詞が添えられ」ていきました。U2らしい真摯な向き合い方です。

 結果は、「ポストパンクの衝動は親密さに代わり」ました。スタジアムを持ち場としているU2がここではごく小さなライヴハウスで聴衆に語りかけるように演奏しています。必ずしもアンプラグドではありませんけれども、サウンドはアンプラグド的にアコースティック中心です。

 ただし、初期の楽曲が中心かと思いきや、意外にブレイク前の初期三作品からの選曲は少ないです。40曲バージョンにも二作目「アイリッシュ・オクトーバー」からはまるで選ばれていません。一方で40曲入りには前作からの楽曲も含まれていたりします。

 彼らはけっして過去の楽曲をやり直してみようと思ったわけではないのでしょう。これまで発表してきた楽曲はそれぞれが完成品であって、ここではあたかも他人の曲をカバーするかのように、それらを解釈し直して演奏したということだと思われます。

 その意味では過去の自分たちにも実に誠実に向き合っていると思います。本作品はU2ならではのシリアスなセルフ・カバー集なのでしょう。ボノは本作品発表時には63歳ですが、その歳に相応しいサウンドを展開しています。歌声に年輪を感じます。セルフ・カバーならでは。

 一気呵成に作られたわけではなく、時間をかけて各楽曲が練り上げられています。クレジットをみるとさまざまなゲストも参加しています。目を惹かれたのは「プライド」で、インドのアーティスト、カーシュ・カーレイとインドの合唱団が参加しています。

 プロデューサーはジ・エッジで、大ベテランのボブ・エズリンが手を貸しています。音の響きや奥深さはまさに現代のテクノロジーの粋を尽くしています。それだけでも再録音する意味があるのではないかと思われるくらいです。さすがはスーパースターです。

 ただし、素晴らしい作品ですけれども、やはりセルフ・カバーはセルフ・カバー、現役ばりばりのはずのU2がもはや年寄り向けのバンドになったような一抹の寂しさを覚えます。最後のロック・スターともいえるU2の現在とどのように折り合いをつければよいのか悩ましいです。

Songs Of Surrender (standard version) / U2 (2023 Island)



Tracks:
01. One
02. Where The Streets Have No Name
03. Stories For Boys
04. Walk On (Ukraine)
05. Pride (In The Name Of Love)
06. City Of Blinding Lights
07. Ordinary Love
08. Invisible
09. Vertigo
10. I Still Haven't Found What I'm Looking For
11. The Fly
12. If God Will Send His Angels
13. Stay (Faraway, So Close!)
14. Sunday Bloody Sunday
15. I Will Follow
16. "40"
(bonus)
17. With Or Without You

Personnel:
Bono : vocal
The Edge : guitar, vocal, Piano, Keyboards
Adam Clayton : bass
Larry Mullen Jr. : drums, percussion
***
Abe Laboriel Jr. : chorus
Duncan Stewart : synthesizer, guitar, piano, marimba
Declan Gaffney : synthesizer
HAUSER : cello
Peter Gregson : cello
Karsh Kale : orchestra, bells
Hillspring Children's Choir, Kamakshi Khanna : choir
Daniel Lanois : guitar
Stewart Morgan : piano
Bob Ezrin : cello
Terry Lawless : keyboards