ディスク・ユニオンの店舗を訪れるたびに「限定○○枚」のあおり文句に釣られて、ついつい手にしてしまう進入禁止のCDです。今回はアンビエント系の作品ですから、ユニット名は血を吸うカメラです。今回はちゃんと「血を吸うカメラ=進入禁止」とクレジットされていました。

 「死して生を望む」は血を吸うカメラの第二弾です。今回はなんと「限定66枚!」です。自動書記のお告げで決まった枚数だそうです。まだ配信は解禁されていませんから、希少価値はばつぐん、まさにコレクターズ・アイテムです。鼻が高いです。

 血を吸うカメラは「アンビエント暴力洗脳ユニット」とされています。ハーシュ・ノイズ系のサウンドで名高い進入禁止ですが、アンビエントを展開する際には「血を吸うカメラ」と名乗っています。確かにノイズなどとはとても呼べないサウンドが聴こえてきます。

 アルバムはまず「総禮伽陀」で始まります。伽陀は仏教の声明の一種で、いわば仏の讃美歌です。総禮伽陀は法要の最初に一同で礼拝するときに唱える伽陀で、しばしば導師ご入場の時に鳴り響きます。進入禁止は真言宗の僧侶ですからいわば本業です。

 ここでは進入禁止の別ユニット、人間石鹸にも参加しているナナウミのドラミングが加えられて血を吸うカメラらしいサウンドになっています。後半のボーカルは即興で歌う端唄です。進入禁止のボーカルはとても神秘的で、宗教儀式そのものともいえます。

 2曲目はタイトル曲「死して生を望む」で、これまた進入禁止のボーカルとナナウミのドラミングの対決型です。ここでのボーカルはホーメイ、世界中に存在する喉歌です。ナナウミのハードコアなドラミングと大変相性がよく、地獄のイメージが湧き上がってきます。

 続く「渦巻」と「対話」では竹原幸一と石井秀典の二人が参加しています。この二人は日本を代表する南インドの音楽奏者です。インド音楽の催しがあると呼ばれる由緒正しき人々です。二人の南インド・リズムに乗せて進入禁止は笙を演奏しています。

 竹原は両面太鼓のムリダンガンと口琴モールシン、石井は太鼓タヴィールとインドのタンバリンであるカンジーラを使っているとクレジットされています。日本ではなじみがありませんけれども、いずれも南インドでよく使われるリズム楽器です。

 インドの古典音楽ではドローンが使用されますが、ここでは笙がドローンの役割も果たしており、南インド打楽器群との相性は抜群です。これをアンビエントと称してよいのか疑問なしとしませんけれども、のたうち回るサウンドは確かに暴力的ではあります。

 続く「時の中」は一転して笙のソロ曲です。パイプオルガンの響きのようなサウンドが美しい旋律を奏でていきます。最後の「彼岸花」もソロ、こちらはペルシャの弦楽器タンブールをが演奏されています。シタール様のサウンドがオーセンティックに響いてきます。

 今回もジャケットが恐ろしくも美しいです。このジャケットは「迷宮の悪夢展」などで知られる暗黒銅版画家の生熊奈央による作品です。サウンドの暗黒とジャケットの暗黒が響きあって美しい世界を現出させています。恐るべきセカンド・アルバムです。

Wanting To Live Only To Die / Blood Sucking Camera (2023 迷宮入り)

ご参考



Tracks:
01. 総禮伽陀
02. 死して生を望む
03. 渦巻
04. 対話
05. 時の中
06. 彼岸花

Personnel:
進入禁止
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竹原幸一 : mridangan, morsing
石井秀典 : thavil, kanjira
nanaumi : drums