ジャケットの白黒市松模様はコシノジュンコさんちのお手洗いの壁なのだそうです。お洒落なトイレというのは落ち着かないのではないかと思いますが平気なのでしょうか。ついでに加藤和彦が着用している服はイッセイ・ミヤケの初めての男物の見本品だそうです。

 小ネタから始めてみました。本作品は加藤和彦の1年3か月ぶりのアルバム「ガーディニア」です。前作とはがらりと異なり、本作品はすべて日本で制作されました。しかし、国内制作にもかかわらず本作品は意表をついたことにボサノヴァに取り組んだアルバムです。

 加藤によれば、ブラジルに「行けば行けたんだけど。本当のサンバとかブラジルをやるんじゃないし、やっても本物にはかなわないって頭からあったから」、ラテンを本業としていない日本人ミュージシャンを集めて日本で制作することになりました。

 それに、ボサノヴァやブラジルといっても、「でもコピーはしたくない」ということで、坂本龍一とともに頑張って研究して見事な和製ボッサになっています。加藤の洒脱なセンスのなせる技です。日本人には本場のボサノヴァ以上にボサノヴァっぽく聴こえます。

 ところで、今でこそ、日本でもボサノヴァはお洒落系の音楽として定着していますけれども、このアルバムが発表された当時は、もちろん熱心なファンはいらっしゃいましたけれども、一般にはいかがわしい音楽のイメージがありました。もはや信じられませんけれども。

 本作品に参加しているのは、坂本に加え、サディスティック・ミカ・バンド仲間の高橋幸宏と後藤次利、パーカッションの斉藤ノブ、ギターにははっぴいえんどの鈴木茂、ジャズ系の渡辺香津美。さらに管楽器が入り、笠井紀美子のボーカルが加わります。

 紙ジャケ盤ライナーにて小倉エージ氏は本作品の背景に、この時代の最新の音楽動向であるフュージョンとAORが背景にあるとしています。特にマイケル・フランクスの「スリーピング・ジプシー」が加藤和彦の中で眠っていたものを目覚めさせたのに違いない」。

 小倉氏は当時の加藤と親交があった人ですから説得力があります。言われてみればそんな気もしてきます。しかし、何だかそれでは面白くない気がします。何といっても、「教授、ちょっとジョビンの研究してよ」から始まったわけで、もっと素朴な動機だったと思いたい。

 それにしても加藤の声にはボサノヴァが似合います。タイトル曲での笠井との掛け合いも見事で、加藤のボーカルの魅力が最大限に発揮されているアルバムです。この作品だけ聴いていると、加藤は生まれてからずっとボサノヴァ歌手だったんじゃないかと思えるほどです。

 坂本によるストリングス・アレンジメントはゲッツ/ジルベルトのクラウス・オガーマンを研究したことがよく分かる徹底ぶりです。参加ミュージシャンもそれぞれにボサノヴァを研究している様子が見られます。ただしなり切っているわけでもなく、ボサノヴァ風オリジナルです。

 しかし、そこは徹底しており、ボサノヴァないしブラジルのつれてくるイメージはしっかりと表現されています。中途半端だと悲惨なことになりそうな取り組みですが、そうならないのが加藤の凄いところです。決して肩をいからせることのない加藤のボーカルに注目の一枚です。

Gardenia / Kazuhiko Kato (1978 ドーナッツ)

*2013年11月28日の記事を書き直しました。

参照:「エゴ 加藤和彦、加藤和彦を語る」牧村憲一監修(スペース・シャワー・ブックス)



Tracks:
01. Gardenia
02. Today
03. 気分を出してもう一度
04. 時の流れ
05. Spicy Girl
06. Together
07. まもなく太陽が沈む
08. 終りなきCarnaval
09. Maria

Personnel:
加藤和彦 : vocal, guitar
***
坂本龍一 : piano, synthesizer, strings
鈴木茂、渡辺香津美 : guitar
高橋幸宏 : drums
後藤次利 : bass
斉藤ノブ : percussions
笠井紀美子、梅垣達志、尾形通子、瀬尾一三 : chorus
村岡建 : sax
向井明生 : trombone
数原晋 : Flugel horn
ラリー寿永 : quica, percussion