スクリッティ・ポリッティの中心人物グリーン・ガートサイドとデイヴィッド・ガムソンの二人は、サード・アルバム「プロヴィジョン」を発表して以降、ほぼ10年間口をきいていなかったそうです。二人が再び連絡を取り合ったのは1997年のことだといいます。

 グリーンは「プロヴィジョン」発表後、しばらくはスクリッティ・ポリッティとしてシャバ・ランクスとのコラボでシングルを発表したり、B.E.F.とコラボするなどの活動を続けていましたが、やがて長い休養期間に入ってしまいました。健康に恵まれないグリーンでした。

 本作品はスクリッティ・ポリッティが10年ぶりに発表した復活作「アノミー&ボノミー」です。グリーンはガムソンにいくつか曲を送ったそうで、それを気に入ったガムソンのプロデュースで本作品が制作されることになりました。ガムソンはプロデューサー役を務めています。

 10年の歳月を物語るのはヒップホップの影響です。10年前にソウル、R&Bの色が濃い作品を発表したスクリッティ・ポリッティです。それをそのままアップデートするとごくごく自然にヒップホップとロックとの融合ということになります。ある意味、誠実な対応です。

 しかし大きく違う点は、本作品にはキーボードが使われていないということです。それはガムソンのこだわりらしく、エレピのように聴こえるサウンドもギターを使っているのだそうです。それなのにシンセばりばりだった彼らの昔のサウンドと感触が変らないのが面白いです。

 アルバムに参加しているミュージシャンも多彩です。グリーンによれば、その中でも核となっているのは、ベースのミシェル・ンデゲオチェロとギターのアラン・ケイトーです。ンデゲオチェロは米国のネオ・ソウルのさきがけとされるレジェンド・ベーシストです。

 ケイトーはンデゲオチェロとともにチャカ・カーンのアルバムに参加しており、その縁での参加だと思われます。ドラムにはアビ・ラボリエル・ジュニア、シールやスティング、ポール・マッカートニーのバンドで有名です。加えて、「ゴーゴー・ヒーロー」、ジュジュ・ハウスです。

 さらにケイトーの友だちということで、プリンス&レヴォリューションのウェンディが参加しており、何曲かでギターを弾いています。また、ヒップホップ・プロデューサーのリー・メイジャーやモス・デフなどもンデゲオチェロとともにラップを披露しています。

 面白いのはポール・ライザーがストリングスのアレンジをしている点です。ライザーはモータウンの伝説的なアレンジャーで、テンプテーションズの「マイ・ガール」や「パパ・ワズ・ア・ローリング・ストーン」などを手がけた人です。まさにレジェンドです。

 そんな人を連れてきて、ギター・ポップとヒップホップの融合に加えてさらにモータウンを投入するという離れ業を見せてくれます。グリーンはスクラッチも披露しており、ヒップホップ・フリークぶりを発揮しながら、しっかりと甘いポップにも目配りをしています。

 「キューピッド&サイケ85」のアップデート版を制作して、スクリッティ・ポリッティが戻ってきたことは大変喜ばしいことでしたけれども、さほど大きな話題にならなかったのは残念なことです。やはり休んでいる期間が長すぎたのでしょう。いい作品ですけれども。

Anomie & Bonhomie / Scritti Politti (1999 Virgin)



Tracks:
01. Umm
02. Tinseltown To the Boogiedown
03. First Goodbye
04. Die Alone
05. Mystic Handyman
06. Smith 'N' Slappy
07. Born To Be
08. The World You Understand (Is Over + Over + Over)
09. Here Come July
10. Prince Among Men
11. Brushed With Oil, Dusted With Powder

Personnel:
Green Gartside : vocal, guitar, Ebow, vinylism, noises
***
Allen Cato, Wendy Melvoin : guitar
David Gamson, Vere Isaacs : bass
Me'Shell NdegéOcello : bass, chorus, rap
Abe Laboriel Jr., Willam "Juju" House : drums
Steve Pigott, Paul Riser : string arrangements
Patrick "Red Cloud" Mah : chorus
Lee Major : chorus, rap
Mos Def : rap
Jimahl : chorus, rap