スクリッティ・ポリッティは「キューピッド&サイケ85」で大きな成功を収めた後、チャカ・カーンをプロデュースしたり、アル・ジャロウに曲を書いたりと、ソウル、R&B方面で活躍を続けます。そしてマドンナの映画「フーズ・ザット・ガール」にも曲を提供しています。

 さらにシングル・カットされた「パーフェクト・ウェイ」がマイルス・デイヴィスによってカバーされるなど、従来型のシンセ・バンドとは一味違う活動を行います。そうした活動は今ではまるで違和感もありませんけれども、それは彼らが切り開いた道でもあります。

 そうして前作から3年を経て、本作品「プロヴィジョン」が完成します。成功したアルバムの後は何かと難産になるものですけれども、彼らの場合にはグリーン・ガートサイドの健康がすぐれないという問題もあって、とりわけ時間がかかってしまいました。

 加えてシンクラヴィアの導入も時間がかかった要因です。1980年代後半にはかなり使われるようになりましたけれども、まだまだ操作が難しかったようです。その操作に集中することで、木を見て森を見ない結果になってしまったとデヴィッド・ガムソンが反省しています。

 そんな状況ではあったものの、アルバムは何とか完成します。前作には及ばなかったものの、全英8位まで上るそこそこのヒットを記録しました。アルバムからは3曲のシングルがカットされていますが、こちらはチャート入りしたもののそこまでのヒットにはなりませんでした。

 特筆されるのは、帝王マイルス・デイヴィスの参加です。「パーフェクト・ウェイ」をカバーしたお返しということなのでしょう、本作品からシングル・カットされた「オー・パティ」にてマイルスのトランペットが鳴っています。もうこれはありがたがるしかない状況です。

 他にもマイルスに抜擢されて一躍有名になったベースのマーカス・ミラーが参加していますし、さらにファンク界からはロジャー・トラウトマンがボコーダーで参加しています。他にもシックのコーラス隊にいたディーヴァ・グレイなど多彩なゲスト陣の名前が見えます。

 一方、プロデュースは「フーズ・ザット・ガール」に提供された「ベスト・シング・エバー」に共同プロデューサーがクレジットされているのみで、全曲をグリーンとガムソンの二人が全面的に担当しています。こうなるといくら時間をかけても大丈夫ということですね。

 グリーン自身の回想によれば、このアルバムを制作している時には、身体的にも精神的にもひどい状態にあり、シングル曲のMV撮影には病院のベッドから直接向かい、終了後にはまた病院に戻る、といった状況だったそうです。大変ですね。

 アルバムには素敵な楽曲が並んでいるものの、明らかに元気がない感じがします。それはそれで魅力にもなりうると思うのですが、ザ・タイムのようなパフォーマンスを目指していたというスクリッティ・ポリッティですから、なかなかそうもいきません。

 それなりにかっこよくて、そこそこヒットもした本作品ですが、万全とはいえない状況のスクリッティ・ポリッティはこの後長らく休養してしまいましたから、何となく幻のバンドによる幻のアルバムのような印象を受けます。その意味では何だか不思議な作品です。

Provision / Scritti Politti (1988 Virgin)



Tracks:
01. Boom! There She Was
02. Overnite
03. First Boy In This Town (Lovesick)
04. All That We Are
05. Best Thing Ever
06. Oh Patti (Don't Feel Sorry For Loverboy)
07. Bam Salute
08. Sugar And Spice
09. Philosophy Now

Personnel:
Green Gartside : vocal, guitar
David Gamson : synthesizer, keyboards
Fred Maher : drums, drum programming, timbales
***
Miles Davis : trumpet
B.J. Nelson, Eric Troyer, Fonzi Thornton, Rory Dodd, Tawatha, Diva Gray, Mark Stevens, Yogi Lee : chorus
Marcus Miller : bass
Dan Huff, Nick Moroch : guitar
Bashiri Johnson : percussion
Roger Troutman : vocoder
Joe Mennonna, Mitch Corn : horns
New West Horns : horns