加藤和彦はソロ・デビュー作を発表した後、またまたアメリカを旅しています。今回は日本のミュージシャン関連のツアーへの参加でした。このツアーには谷村新司も参加していたそうで、アリス結成のきっかけにもなったツアーとして有名です。

 ツアーから帰って来た加藤は二枚目のソロ・アルバムを発表します。それが本作品「スーパー・ガス」です。本人曰く、「ガスは何かといいうと、フロン・ガスなんだ」ということです。フロンは地球温暖化の元凶ですが、この頃は吸ってらりったそうです。

 もっとも一般にはガスは犬の名前だと言われています。ジャケットでスーパーマンの格好をしている犬です。この頃、加藤は「ずっとコンサート、このスーパーマンの衣装でやってた」そうです。雑誌の特集かなにかで一式作ったんだと。何ともしみじみする話です。

 本作品にはクレジットが入っていますが、加藤によれば「これ、たぶん日本でプロデュース・クレジット入れた最初だと思うよ」とのことです。日本の音楽界では今でもプロデューサーのクレジットがないものもあります。加藤のプロデューサーの役割への認識は突出していました。

 さらに「レコーディングで、日本で最初にシンセサイザー使ったのもたぶん僕だよ」と加藤は語っています。この作品ではミニムーグとアープ2600を使っています。冨田勲が個人輸入したのは1971年秋ごろですから、確かに最初かもしれません。

 参加しているミュージシャンは、前作にも参加していたつのだひろ、つのだとバンドを結成する四方義朗、関西フォークを代表する五つの赤い風船の西岡たかし、加藤夫人のミカさんなどですが、ドラムのつのだを除くと全面的に参加しているわけではありません。

 サウンド面ではプロデューサーに自らの名前をクレジットした加藤の独壇場、まさにソロ・アルバムです。もはや当時のフォーク・シーンなどともまるで無縁な加藤ワールドです。前作をさらに押し進めて、よりアルバム全体としてのまとまりのある作品になりました。

 作詞は全曲を松山猛が担当しています。何か主張をするというよりも、曲ごとにロール・プレイを楽しんでいるような作風が新鮮です。たとえば、アルバム中でもっとも有名な曲、「家をつくるなら」は、加藤と松山が「小市民ソング」として作ったものです。

 皮肉なことに小市民ぶりが行き届きすぎたせいで、この曲は住宅建材の会社のCMに使われて今に至るも加藤の代表曲の一つになっています。一方、「せっかちと」は放送禁止用語がNGとなったため、わざとその部分の音を無神経に消去するという反骨が見られます。

 今なら「ラルク・アン・シエル」とされるであろう「アルカンシェル」と、前作に入るはずだったであろう「児雷也冒険譚」はいずれも7分を超える長尺です。そうして最後のタイトル曲は加藤のアコギによる短いインストゥルメンタル、実に自由です。

 当時のフォークやロックのシーンからは超然としているスーパーな作品だと思います。この頃はまだまだヨッパライのアーティストだとしか認識していませんでしたが、長じて聴いて驚いたものです。この時代にこのような作品が生まれていたことはもっと知られるべきです。

Super Gas / Kazuhiko Kato (1971 Capitol)

参照:「エゴ 加藤和彦、加藤和彦を語る」牧村憲一監修(スペース・シャワー・ブックス)



Tracks:
01. 家をつくるなら
02. アーサー博士の人力ヒコーキ
03. 魔法にかかった朝
04. せっかちと
05. もしも、もしも、もしも
06. 不思議な日
07. 魔誕樹の木陰
08. アルカンシェル
09. 児雷也冒険譚
10. スーパー・ガス

Personnel:
加藤和彦 : guitar, bajo, harmonium, steel-drum, vocal
***
西岡たかし : flat mandolin, chorus, vibe
つのだひろ : drums, percussion, guitar, chorus
ミカ : percussion, chorus, screaming
四方義朗 : guitar, chorus
Monsiever Kan : chorus
Toshio Endo : pedal steel guitar
Kei Ishikawa : bass
Sasa & Koji : chorus
Baichan : chorus