マイルス・デイヴィスは1975年に一旦音楽生活から引退してしまいます。5年後には復活しますけれども、マイルスほどの人が隠遁するわけですから、ジャズ界にとっては一大事でした。もちろん新譜の録音はありませんけれども、無聊を慰めるためのリリースは続きます。

 本作品は1977年に発表された2枚組ライヴ作品「ダーク・メイガス」です。1975年の日本公演を収録した「アガルタ」が発表された後、同じ公演からの別作品「パンゲア」と並んで日本のみで発売されたものです。米国では当時は発売されませんでした。

 この頃のマイルスの日本での人気ぶりを伺うことができます。いわゆるエレクトリック・マイルスですから、米国では賛否両論が巻き起こっており、レコードの売れ行きも芳しくありませんでしたが、日本では快調だったのでしょう。確かにマイルスの名前はよく聞きました。

 さて、本作品は1974年3月30日にニューヨークのカーネギー・ホールで行われたライヴの模様を収録したライヴ・アルバムです。「イン・コンサート」の半年後のライヴですけれども、編成はかなり変わりました。まず、インド楽器が見当たらなくなりました。

 サックスは「オン・ザ・コーナー」のセッションに参加していたデヴィッド・リーブマンが担当しています。もう一人、アザール・ローレンスも一部に参加しています。これはどうやらオーディションを兼ねていたようです。本番ライヴでオーディションとは帝王らしいです。

 そしてギターが何と3人です。「イン・コンサート」にも参加していたレジー・ルーカスに加えてピート・コージーとドミニク・ガモーが演奏しています。ガモーはローレンスと同じくオーディションだった模様ですが、全編でギターを弾いています。トリプル・ギターです。

 この頃のマイルスはジミ・ヘンドリックスのようなギター・サウンドを求めていました。この3人は「今じゃ有名なプロデューサーになっているレジー・ルーカス、ジミ・ヘンドリックスやマディ・ウォーターズに近かったピート・コージー、それにドミニク・ガモーというアフリカの男」です。

 「もし全員がそのまま続けていたら、もっともっとすばらしいバンドになっていたことは、間違いない」とマイルスも認める陣容でしたが、マイルスの健康状態がこれを許さなかったのが残念です。かなり当時の理想のサウンドに近かったということができるでしょう。

 リズム・セクションは変わらず、マイケル・ヘンダーソンのベース、アル・フォスターのドラムス、エムトゥーメのパーカッションです。エムトゥーメとコージーの参加がヨーロッパ臭さを消して、「ドラムスとリズムが最高に強調されて、ソロはあまり重視しない」スタイルの登場です。

 当時、マイルスはシュトックハウゼンの音楽に対するコンセプトを「さらに勉強した」ということで、とりわけ、「一つのプロセスとしてのパフォーマンスというアイデアに、どんどん引かれて」いきました。その結果、本作品も2枚組がほぼまるごと連続した演奏になっています。

 マイルスが時おり弾くオルガンを除いてキーボードはなし。順番にソロをとるようなこともなく、ファンキーでロック的なサウンドの洪水です。ただし、ジャズ・ロックというよりはやはりフュージョン・サウンドです。ジャズ的なクールさが横溢している演奏です。

Dark Magus / Miles Davis (1977 Columbia)

参照:「マイルス・デイヴィス自伝」中山康樹訳(シンコー・ミュージック)



Tracks:
(disc one)
01. Moja (Part 1)
02. Moja (Part 2)
03. Wili (Part 1)
04. Wili (Part 2)
(disc two)
01. Tatu (Part 1)
02. Tatu (Part 2)
03. Nne (Part 1)
04. Nne (Part 2)

Personnel:
Miles Davis : trumpet, organ
Dave Liebman : soprano sax, flute, tenor sax
Azsr Lawrence : tenor sax
Pete Cosey : guitar
Reggie Lucas : guitar
Dominique Gaumont : guitar
Michael Henderson : bass
Al Foster : drums
Mtume : percussion