グレイトフル・デッドの最後のスタジオ・アルバム「ビルド・トゥ・ラスト」です。デッドはこの後も活動を続けますけれども、本作品の翌年にはブレント・ミッドランドが亡くなり、さらに1995年にジェリー・ガルシアが亡くなったことでその活動を停止します。

 そんな未来が待っているとは知らないデッドは、本作品でも快調に飛ばしています。とはいえ、前作がデッド史上初の全米トップ10ヒットとなったからといって、すぐに次のアルバムを作ったりしないところが彼らの持ち味です。前作からはきっちり2年の間を空けています。

 この間にまたまた新曲が積みあがってきていました。前作をスタジオ・ライヴに近い形でベーシック・トラックを作ったことが奏効し、スタジオ作品に忌避感がなくなっていたことも新作へのハードルを下げていたようです。あいかわらずライヴは充実していましたし。

 ところが、前作同様の手法で制作を開始してみると、どうにも満足できる結果が得られませんでした。そこで今回はまるで新しい手法が試されました。まず曲のテンポを定めてドラム・マシーンで基本的な曲の表情を定め、リズム・トラックの長さをみんなで決めていきます。

 その後、メンバーそれぞれが持ち帰ってメインとなる楽器を演奏したものを持ち寄ります。それらを組み合わせることで本作品の出来上がりです。一緒に演奏したことはないのだそうです。これだけライヴばかりしているデッドですから異例中の異例だと言えるでしょう。

 結果はなかなか面白いことになりました。バンド全体の化学反応は失われることはなく、しかし、たとえば「ヴィクティム・オア・ザ・クライム」のフィル・レッシュのベースのように、これまでとは一味違う演奏が収められたりと、全体にサウンドの感触がこれまでとは異なります。

 こういうアルバム制作の仕方は機材の進歩もあってこの頃には結構普通のことになっていました。したがって、この作品でのデッドの冒険は当時の一般的なロック作品と共通する感触があります。こういう道もあったのかもしれないなとしみじみと思ってしまいます。

 それはともかく、本作品ではミッドランドの多大な貢献が目立ちます。全9曲中なんと4曲がミッドランドとジョン・バーロウの共作になっています。残りはガルシアが3曲、ボブ・ウィアが2曲という構成です。ミッドランドが亡くなることが予見されていたかのようです。

 ミッドランドの最後の曲「アイ・ウィル・テイク・ユー・ホーム」は幼い子どもたちに捧げられた可愛らしい曲で、何だか楽しげなだけに涙を誘います。アルバム中でみせるミッドランドの力強いボーカルもデッドの新たな魅力だっただけに残念です。

 一方、ガルシアとロバート・ハンターの「フーリッシュ・ハート」などはシングル曲としても秀逸で、そこそこのヒットを記録しました。アルバムも前作ほどではありませんけれども、全米トップ30に入るヒットを記録しています。ますますファンのすそ野を広げることにつながりました。

 デッドのコンサートにはさらに多くの聴衆が押し寄せることになり、従来からのファン、デッド・ヘッズとの間で軋轢が生じることもあったようです。だからといって、観客にああしろこうしろとは指図しない。世界がデッドになれば自由と平和が訪れるでしょうに。

Built To Last / Grateful Dead (1989 Arista)

*2011年12月27日の記事を書き直しました。



Tracks:
01. Foolish Heart
02. Just A Little Light
03. Built To Last
04. Blow Away
05. Victim Or The Crime
06. We Can Run
07. Standing On The Moon
08. Picasso Moon
09. I Will Take You Home
(bonus)
10. Foolish Heart (live)
11. Blow Away (live)
12. California Earthquake (Whole Lotta Shakin' Goin' On) (live)

Personnel:
Jerry Garcia
Mickey Hart
Bill Kreutzmann
Phil Lesh
Brent Mydland
Bob Weir