直島は瀬戸内海に浮かぶ香川県の小さな島です。この島がアートの拠点として世界中から注目を集めるようになったのは、文化の島にしたいという町の意向に共鳴して、福武書店、後のベネッセ・コーポレーションが進出した1987年以降のことです。

 1989年には「直島文化村構想」が発表され、1992年にはベネッセ・ハウスが建設されていきます。2004年には安藤忠雄設計による地中美術館も開館、一方で島全体を使ったアート・プロジェクトが開催されるなど、徐々に文化の花が開いていきました。

 その重要なイベントとなったのが2001年に島のほぼ全域を会場にして開催された「スタンダード展」でした。大竹伸朗や杉本博司を始め、13名の日本のアーティストがそれぞれの「スタンダード」を示していくという画期的なイベントでした。

 第二弾となる「スタンダード展2」は2006年から2007年にかけて開催されました。「日常生活を支える生活基盤を『文化』の視点から見直し、芸術活動によって再構築していく」という基本テーマにそって11人のアーティストと建築家SANAAが参加しました。

 大竹や杉本の他、草間彌生や千住博などの著名な日本の現代アーティストの名前が並ぶ中、デヴィッド・シルヴィアンもこれに参加しました。もちろん音楽作品です。本作品「ウェン・ラウド・ウェザー・バフィッテッド・ナオシマ」がその成果です。

 この作品は島のあちらこちらに点在する「スタンダード展2」のアートワークのためのものです。島を訪れた人はまず本作品が入ったiPodを渡され、それを聴きながらがアート巡りをするという仕掛けです。ある意味ではアートワークをつなぐ役割を果たしています。

 スタンダード展終了後も島に残されているそうですが、手元にあるのはシルヴィアンのレーベル、サマディサウンドから限定盤で発表されたCDです。直島の写真を使った横長のお洒落なパッケージに包まれていて、アート・プロジェクトらしさを発揮しています。

 本作品では70分にわたるアンビエント的なインストゥルメンタルによるサウンドスケープが展開します。標準的な意味でいうところのメロディーもリズムもありません。直島でアート作品を見ながら聴くために制作されているということがよく分かります。

 参加しているミュージシャンは「ブレミッシュ」に参加していたクリスチャン・フェネス、そのリミックスを担当したアキラ・ラブレイス、「スノウ・ボーン・ソロウ」に参加していたアーヴ・ヘンリクセン、そしてワイヤー誌などの記者であり、尺八奏者でもあるクライヴ・ベルです。

 作品の性質上、直島の環境音が付加されることで完全になるように設計されています。親切なことに本CDには少々直島のサウンドが加えられているとのことです。音数も少ないですから、環境音は確かに作品の一部を構成しています。

 シルヴィアンはもちろん直島を訪れて本作品を構想しています。閉じた空間でのインスタレーションとは異なり、開放された空間を感じるサウンドになっています。小さな部屋の中で聴いていても、開け放たれるかのようですから、直島で聴けばさらに格別でしょう。

When Loud Weather Buffeted Naoshima / David Sylvian (2007 Samadhisound)



Tracks:
01. When Loud Weather Buffeted Naoshima

Personnel:
David Sylvian
Clive Bell
Christian Fennesz
Arve Henriksen
Akira Rabelais