「ドシンの跡を追って」は任天堂のゲーム「巨人のドシン1」のサウンドトラック・アルバムです。2000年の発表以来、根強い人気を誇っており、20年以上を経てアナログLPおよびCDが再発されることになりました。もちろんリマスターされています。

 アルバムの制作者は浅野達彦です。浅野は1966年生まれ、東京藝大で絵画を学んだ人です。14歳の時からギターと宅録をはじめており、大学在学中から本格的にバンド活動に取り組んでいます。デビューは1996年で、これは一人多重録音によるシングルでした。

 浅野はその後さまざまなコンピレーションでソロ作品を発表したり、ギタリストとしていくつかのバンドに参加したりする一方で、ゲーム音楽の制作にも積極的に関わります。飯田和敏監督による「巨人のドシン1」のサントラである本作品もその一つです。

 何でも浅野がゲーム開発会社でバイトをしている時に飯田と知り合ったそうで、バイトの最終日に飯田が「明け方の人形町を見ながら『いつか自分がゲームを作ることになったら、浅野さんに音楽をお願いしたいと思ってる』って告ったんですよ」。いい話ですね。

 残念ながらこのゲームをプレイしたことはありません。調べたところ、幻の南の島に巨人が現れて島民達とモニュメントを建設していくゲームらしいですが、敵を倒したり、謎を解いていくようなタイプのゲームではなく、島での毎日を楽しむタイプのゲームのようです。

 メーカーの資料によれば、サントラの制作にあたって、「飯田監督からは『伊福部昭の楽曲をマーティン・デニーが編曲、それをレジデンツが演奏している』というイメージが提示された」そうです。ここに「浅野自身の拘る『身の周りの風景』」が融合されています。

 結果的に「まるで訪れたことのない絵葉書の風景を再度風景の中で撮影したかの様な、エキゾチックと簡単に括ることができない夢の情景作品となった」と説明されています。実に過不足のない説明です。ここで描かれる音世界がうまく表現されています。

 ただし、本当にあの当時のゲームのサントラなのかと聴いていると疑問も出てきます。アコースティック・ギターを始め、繊細な楽器のサウンドが美しすぎるのです。実際にゲーム中には登場しない曲が多いようで、サントラでありながらその範疇を超えています。

 当時のゲームはまだまだサウンド面で制約が大きかったですから、こうした形のサントラというのもいいものです。実際に、エレクトロニクスとアコースティックの融合具合が絶妙な本作品を流しながらゲームをプレイした人も多いのではないでしょうか。

 私が浅野を知ったのは、デヴィッド・シルヴィアンの「ブレミッシュ」のリミックス集です。浅野による「ハウ・リトル・ウィ・ニード・トゥ・ビ・ハッピー」のリミックスはしばしば同アルバムのハイライトとされます。そこでのジャジーなムードが漂う気品あふれるサウンドは凄かった。

 そこから遡ること5年、本作品ではすでに完成された音世界が堪能できます。浅野のアルバムは数が少なく、本作品が最初のフルアルバムですから貴重です。ゲームのサントラということで素通りされがちですが、それではあまりにもったいない。絶品です。

In the Wake of Doshin, The Giant / Tatsuhiko Asano (2000 Whereabouts)

参照:WWW WWWX 浅野達彦インタビュー



Tracks:
01. ”巨人のドシン!"のテーマ
02. 黄色い巨人
03. バルド島からずっと
04. 記憶の島
05. 5度の光
06. たき火
07. 何もない島
08. 人々の暮らし
09. 黄色い巨人リプライズ
10. 祭りの準備
11. 楽園地帯
12. 草いきれ
13. 祭りの音楽
14. 時間
15. 朝のジャングル
(bonus)
16. End Title

Personnel:
浅野達彦
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Hiroshi Masuyama : guitar (09)