このアルバムはロック史、いやレコード史上で特異な位置を占めています。史上初の大ベストセラー・アルバムなんです。何とあっという間に800万枚を売り、ビルボードのチャートに1年以上ランクイン、10週連続第1位となりました。トータル売上は1200万枚に達しました。

 それまでの記録はキャロル・キングの「つづれおり」。その他に上位を占めていたのは、サイモンとガーファンクルの「明日に架ける橋」やビートルズの「サージェント・ペパーズ」など、ポピュラー音楽の歴史に残るスーパースターの超名盤ばかりです。

 いずれも長年かかって売り上げた記録だったのですが、その記録をそれまでぱっとしなかったピーター・フランプトンが軽々と打ち破ったわけです。そのニュースは驚きとともに日本にも伝わってきました。何が何だか分からないとまどいまで伝わりました。

 しかし、この作品の後には、フリートウッド・マックの「噂」やイーグルスの「ホテル・カリフォルニア」が続き、その後、あっという間に1000万枚を売ることはさほど珍しくもなくなっていきます。その先駆けとなったのが「フランプトン・カムズ・アライヴ」だったというわけです。

 このアルバムの果たした役割は、レコードは贅沢品ではない、ということを人々に気付かせたことだったのでしょう。冷静に考えると、金額も大したことはないので、贅沢品なわけはないのですが、なぜか昔はレコードを買うのは特別のことだったのです。

 しかし、それがなぜこのアルバムだったのか、ということは謎です。その後のロック史教本などでは大てい無視されていますし。本人もレコード会社もこんなに売れるとは思っていなかったようです。買った人もなんで買ったかよく分からないようでした。

 当時言われていたのは、値段が安かったということでした。2枚組なのに1枚の値段。お得感があったということです。さらに、「みんなが買ってるから」買ってみようと思った人が多かったのかもしれません。アメリカでも付和雷同があるんでしょう。

 まあ、そんな歴史的な価値は別として、これは良い作品です。バンドはドラムのジョン・シオモス以外は一新されていますが、このカルテットは息がぴったり合っていて、彼のこれまでのスタジオ・アルバムとは少し違うノリが全編を貫いています。生き生きとしたロックです。

 大ブレイクしたアメリカとは裏腹に本国イギリスでは6位どまりだったのは、イギリス人受けしない底抜けの明るさのせいではないでしょうか。大ヒットした「ショウ・ミー・ザ・ウェイ」で活躍するトークボックスなどはまるで音楽漫談のようですから。

 全編、これアゲアゲのノリで迫ってきます。意外に腰の据わったロック・アルバムです。ピーターはハスキーな声を精いっぱい張って歌います。楽しそうです。ジャケット写真の目はどこかにいっちゃっているようですし、神がかっていたのではないかと思わせます。

 1970年代のロックの良いところを詰め込んだ脳天気なライブ・アルバムはあの時代でなければできなかったでしょう。60年代はもっとシリアスでしたし、80年代は屈託がありました。ロックが素直に脳天気でいられたのはやはり70年代だけでした。

Frampton Comes Alive / Peter Frampton (1976 A&M)

*2011年1月2日の記事を書き直しました。



Tracks:
(disc1)
01. Introduction / Something Happening
02. Doobie Wah
03. Lines On My Face
04. Show Me The Way
05. It's A Plain Shame
06. Wind Of Change
07. Just The Time Of Year
08. Penny For Your Thoughts 空白の時間
09. All I Want To Be (Is By Your Side)
10. Baby, I Love Your Way 君を求めて
11. I Wanna Go To The Sun
(disc2)
01. Nowhere's Too Far (For My Baby) 愛の面影
02. (I'll Give You) Money
03. Do You Feel Like We Do
04. Shine On
05. White Sugar
06. Jumping Jack Flash
07. Day's Dawning 夜明け

Personnel:
Peter Frampton : guitar, vocal, talkbox
John Siomos : drums
Bob Mayo : guitar, vocal, fender rhodes piano, organ, piano
Stanley Sheldon : bass, vocal