坂本龍一総合監修による「音楽の学校」、コモンズ:スコラの第二巻は「ジャズ」です。「世界中の音楽を継承してゆくアーカイヴ・シリーズ」らしく、早々とポピュラー音楽をとりあげました。気合の入り方が分かるというものです。期待も膨らみました。

 ブックレットの構成は第一巻と同じです。メインとなる鼎談は、総合監修の坂本龍一、日本のジャズの第一人者である山下洋輔、自身も音楽家である評論家の大谷能生の三人が担当しています。断章は第一巻と同じく後藤繁雄、原典解説は大谷が担当しています。

 肝心のCDの選曲は山下が行っています。全部で11曲。今回はまずジャズの誕生を語り合い、お勉強してからCDを三人で聴いていく構成になっています。大谷と山下が熱く語り、それを坂本が興味深げに聞いている、そんな役割分担です。

 ジャズの歴史をたった一枚のCDで網羅するのですから大変なことです。しかし、さすがは山下洋輔、これを見事にやってのけています。スウィングからモダン・ジャズへ、そして、ビバップ、モードからフリーへと変遷するモダン・ジャズの動向が要領よくまとまっています。

 選ばれている曲は名曲揃いですから、まったく知らない曲ばかりというわけではありませんけれども、こうして並ぶとそれぞれの違いが際立って聴こえてきます。本で学んだジャズの歴史が生き生きと目の前に現われてくる曲たちによって腑に落ちるという仕掛けです。

 たとえばオーネット・コールマンの「ピース」。ソニー・ロリンズとジョン・コルトレーンのバトルが恐ろしい「テナー・マッドネス」の直後にぽんと置かれることで、コールマンの革新性というものを初めて心の底から得心することができました。

 ただし山下も認めている通り、弱点もあります。それは最新の曲がセシル・テイラーの「トランス」、1962年の曲だということです。ごっそり60年代以降が抜けています。これ以降は山下はプレイヤーであり、「もう人の音楽は聴いてない。(笑)」。

 ジャズをやっていた友人は「1950年代にジャズは完成したので、それ以降のジャズは聴かない」と言っておりました。私はその後のジャズも好きですけれども、時々友人の言葉に賛同しそうになります。このCDの選曲はそういう意図でないことは確認しておきましょう。

 鼎談ではジャズの歴史が語られ、ジャズ理論が語られています。とりわけ各楽曲の理論的な解説は充実しています。しかし、正直に告白すると私にはまったく分かりません。私は音楽家ではないので、知らなくても支障はないと開き直っておきます。

 それよりも鼎談で語られる各楽曲を好きで好きでたまらない様子が楽しいです。「テナー・マッドネス」で、ロリンズが「居丈高」にコルトレーンにかぶせてくると興奮しているところとか。彼らのジャズ愛が伝染して、CDの楽しみも倍増しています。

 「ジャズは、楽譜を介して再現されてくる音じゃなくて、生身の人間がその場で出してくる音ですね。だから聴く場合も生き物を触るみたいに聴けると思うんですね。それが何よりもジャズを聴く喜びではないか」。山下の言葉を胸に刻みたいと思います。

Commmons Schola Vol.2 Jazz / Yosuke Yamashita Selection (2009 Commmons)



Tracks:
01. ベイズン・ストリート・ブルース
02. チャイナ・ボーイ
03. ワン・オクロック・ジャンプ
04. コンファメーション
05. アイ・ガット・リズム
06. レッツ・クール・ワン
07. 不思議の国のアリス(テイク2)
08. テナー・マッドネス
09. ピース
10. 夜は千の眼を持つ
11. トランス

Personnel:
Louis Armstrong (01)
Benny Goodman (02)
Count Basie (03)
Charlie Parker (04)
Hampton Hawes (05)
Thelonious Monk (06)
Bill Evans (07)
Sonny Rollins (08)
Ornette Coleman (09)
John Coltrane (10)
Cecil Taylor (11)