しかも、アイドル・バンドだったザ・ハードの次は、スティーヴ・マリオットとのハンブル・パイでの活躍がありますから、ただキャリアが長いだけの人ではありません。十分なスターとなっていたのでした。本作は成功したハンブル・パイを円満退社した後のソロ・デビュー作です。
フランプトンがマリオットとたもとを分かったのは音楽性の相違にあります。Ｒ＆Ｂにどんどん傾倒していくマリオットに対して、よりポップな音楽を身上とするフランプトンです。そんな経緯を踏まえると一曲目の「フィグ・トゥリー・ベイ」に合点がいきます。
フランプトンのアコースティック・ギターを中心とする穏やかなサウンドはフランプトンがソロとして作品を作る意味を如実に表していると思います。美しいメロディーを少しハスキーな声で優しく歌う名曲です。この曲がアルバム全体のトーンを決めました。
とはいえ、唯一のカバー曲であるローリング・ストーンズの「ジャンピン・ジャック・フラッシュ」ではハードで重厚なギター・サウンドを聴かせてくれますから、アコギ一辺倒のアルバムでもありません。そこはハード・ロックに分類されることもあるフランプトンの懐の深さです。
この曲ではこれまた重々しいブラスがアレンジされています。これはストーンズのアルバムにもかかわったブラスの名手ジム・プライスの手になります。全面的にブラスが導入されているわけではありませんが、アルバムのいいアクセントになっています。
本作品でフランプトンはギターのみならず、キーボードにドラム、ダルシマーにハルモニウムまで八面六臂の大活躍をしています。彼を支えるのはザ・ハード時代の盟友アンディ・バウンやリック・ウィルス、ミック・ジョーンズ、マイク・ケリーなどです。
いずれもまだ若いミュージシャンでそのキャリアは始まったばかりですが、バウンはステイタス・クオー、ジョーンズとウィルスはフォリナー、ケリーはジ・オンリー・ワンズなど、後のブリティッシュ・ロック界で大活躍をするミュージシャンたちです。
さらに本作品にはフランプトンのキャリアの長さを反映して、大物ゲストの姿もみられます。アルバム最後の曲「オールライト」がそれで、リンゴ・スター、ビリー・プレストン、クラウス・フォアマンが参加して、フランプトンの門出を祝福しています。
プロデュースにはフランプトン自身とまだ若いエンジニア、クリス・キムジーがあたっています。キムジーは前年にでたストーンズの「フティッキー・フィンガース」でもエンジニアを務めていました。「ジャンピン・ジャック・フラッシュ」にうってつけの人選です。
さすがにアルバムはよくできています。１９７０年代のまだ純真なロックがつまっています。少し老成気味に感じるところはあり、商業的にはヒットしませんでしたけれども、綿々と再発されて市場から消えることがありません。長く愛される７０年代ロックの隠れた名盤です。
Wind of Change / Peter Frampton (1972 A&M)
Tracks:
01. Fig Tree Bay
02. Wind Of Change
03. Lady Lieright
04. Jumpin' Jack Flash
05. It's A Plain Shame
06. Oh For Another Day
07. All I Wanna Be (Is By Your Side)
08. The Lodger
09. Hard
10. Alright
Personnel:
Peter Frampton : vocal, guitar, organ, keyboards, drums, percussion, dulcimer, harmonium
***
Frank Carillo : guitar, chorus
Mick Jones : guitar
Andy Bown : bass, organ, piano, Mellotron, percussion, chorus
Rick Wills : bass
Klaus Voormann : bass
Billy Preston : piano, organ
Mike Kellie : drums, percussion
Ringo Starr : drums
Chris Karan : congas
Frank Ricotti : shaker
Del Newman : strings arrangements, flute, marimba
Jim Price : brass